全国二万五千人超のリュック・フェラーリファンのみなさま、こんばんは。
本年生誕90周年を迎えるリュック・フェラーリ。PRIX PRESQUE RIEN 2019(プレスク・リヤン賞2019)ももちろん、世界各地でイベントが行われています。
器楽曲やラジオアート、電子音楽といった作曲作品だけでなく、写真や映像作品や舞台劇など、積極的に自身の可能性を探っていったフェラーリの軌跡の一端を伺える、現代音楽家を取り上げたドキュメンタリー「大いなるリハーサル」シリーズ。
フェラーリが制作に携わったこのシリーズの中から、今回「エドガー・ヴァレーズ」「ヘルマン・シェルヘン」「オリヴィエ・メシアン」「カールハインツ・シュトックハウゼン」の4篇を京都で見る機会がこの5月、7日から21日までの毎週火曜日にやってきます(計3回)。もちろん日本語字幕付きです!
(今回、さまざまな複雑な問題を乗り越えて、正式な許諾を得ることに尽力され、またご協力いただきました関係諸氏諸機関の方に深く御礼申し上げます)
作品の日程、内容は画像をご覧ください。
同志社大学「寒梅館クローバーホール」での「特別講座:挑戦と継続〜ヨーロッパの音楽教育が作り上げる力〜(日・EUフレンドシップウィーク)」で講演していただく椎名亮輔さん(同志社女子大学教授、プレスク・リヤン協会日本支局長)から、今回の4本についてのご寄稿をいただけました。
『大いなるリハーサル』は、1965年から翌年にかけて仏国立放送テレビのために製作されたシリーズ番組で、当時リュック・フェラーリは30代半ば。1958年からピエール・アンリの後任的な立場でピエール・シェフェールと一緒にGRMを立ち上げ、共同作業を続けてはいたが、すでに1963年の《異型接合体》以来シェフェールとの仲は冷え切っていた。それでもフェラーリがGRMに残ったのは、国立放送局内で様々な仕事が可能だったからだ。特に映画である。そこで彼は、『大いなるリハーサル』でも共同監督として参加しているジェラール・パトリスを始め、ジャック・ブリソなど、 これまたシェフェールが創設したGRI(映像探究グループ)にいた 先鋭的な映像作家達と積極的に仕事を分かち合っていた。
ヌーベルヴァーグの作家達とも通底するテクニック、例えば「カメラ万年筆」などの当時の最先端の映像技術はこの『大いなるリハーサル』でも至る所に見られる。歩きながら喋るシュトックハウゼンを延々と撮影したり(5月21日「シュトックハウゼン編」)、ヴァレーズ作品の演奏されるパリとデュシャンのいるニューヨークを同時に結んで撮影したり(5月7日「ヴァレーズ編」)、その斬新なアイデアは現在でも全く色褪せていない。
その他にも、メシアンの非常にモニュメンタルな作品《そして我れ死者達の復活を待ち望む》のマッシブな音響に被せてシャルトル大聖堂の圧倒的なゴチック建築を舐め上げるように撮影したり(5月14日「メシアン編」)、音楽に全人生を捧げた「男」がその舞台(=人生)から立ち去る姿を、映像の逆回しによって表現したりする(5月14日「シェルヘン編」)。見所は数限りなくある。
それら全ての背後に感じられるのはまさに前衛芸術家としてのリュック・フェラーリの存在である。「ヴァレーズ編」ではフェラーリ本人も登場し、デュシャンと会話をするのだが、若きフェラーリが貨物船に揺られてニューヨークまでヴァレーズに会いに行った事を知っている我々は、その場に、まるで亡くなったヴァレーズがいるかのような錯覚に陥るのだ。
このようにこの『大いなるリハーサル』で撮影対象となった音楽家達は、実はリュック・フェラーリが実際に非常に身近に接していた人々である。ここには、そのような者でなければ撮る事のできないような独自の視点、貴重な証言、世紀の瞬間が記録されているのである。