その大里さんもやはり、リュック・フェラーリのファンであった。(そして、近藤譲ファンでも!彼は、近藤譲の初期作品 ― おお、タイトルを忘れた、トランペットソロの作品だったと思う ― の貴重な音源を持っていて、それを日本に一時帰国していた時に、彼の江古田[だったかな?]のアパートの一室で聴かせてくれた。)そして、彼のパリ市内の中古レコード店行脚について行く中で、フェラーリの《Und so weiter》(Wergo)のレコードを買ったりした(それには、解説がついていなかったが、彼は「ぼくの持っているのについている解説をコピーすればいい」と言ってくれたりした、とにかくモノを手に入れるのが大事、精神)。そんな時に朗報が!パリ西郊のブーローニュの音楽院で「リュック・フェラーリの日 Journées Luc Ferrari」が開催されるというのだ。その上、御本人も講演をすると言う。1989年2月のことだ。我々は、もちろんいそいそとブーローニュまで行ったのである。そこで、私は初めて生でリュック・フェラーリを見聞きすることができた。その講演の中身については、もう全く覚えていないが、一つだけ、フェラーリが実際の音を鳴らしながら、解説するという場面があって、その中に「ゴン!!」という音があり、彼の解説が「これは私が風呂場で転んで頭を打ったときの音だ」と言ったのが、ものすごく印象に残っている。もちろん、みんなはそれを聞いて大笑いした。自分が転んで頭を打ったときの音を音楽に使う作曲家なんて、今までにいただろうか?でも、よく考えてみると、転んで頭を打った時には彼にはそれを録音する暇なんてなかったはずだ。というよりも、転んで頭を打った時の音なんて、はたして録音できるものなのだろうか?でも、それは確かに「フェラーリが風呂場で転んで頭を打った」という音なのだ。なんと不思議なことだろう。(続く)(椎名亮輔)