全国二万五千人超のリュック・フェラーリファンのみなさま、こんばんは。
師匠も駆け回る師走の頃ですが、当プレスク・リヤン協会日本支局では本年開催された、『プレスク・リヤン賞2015』で見事プレスク・リヤン賞を射止めた梅沢英樹さんへのインタビューを、作曲家の渡辺愛さんにお願いしました。
本日は特別企画として、そのインタビューの模様をお届けします。
プレスク・リヤン賞とは2年に一度開催されるリュック・フェラーリの録音アーカイブスを使った国際コンクール。3回目となる本年度は『プレスク・リヤン賞2015』として募集され、世界各国から集まった作品の中から審査員が選んだ第1位が、梅沢さんの作品「Le Néant」でした。
梅沢さんは現在東京藝術大学大学院に在学中。今回はキャンパスのある上野で、お忙しい時間をインタビューのために割いていただきました。
「写真を撮られるのが恥ずかしい」とシャイな一面ものぞかせておられたようですが、音楽の話となると丁寧に話してくださり、その人柄に渡辺さんも感銘されたとのことです。それでは、どうぞ!
(photo by Ai Watanabe)
《プレスク・リヤン賞受賞を受けて》
渡辺:まず、受賞された今の気持ちをお願いします。
梅沢:身にあまる光栄といいますか…あまり現実味は感じなかったですね。(コンペへの)こういった応募を始めたのも今年からのことなので…。
渡:今年から!? では、CCMC2015 の作品公募が初めて? あの時はみごと網守将平さんとACSM116賞に輝きましたね(ACSM116参考リンク)。CCMC2015では公募発表コンサートのリハーサルを渡辺が仕切りましたが、網守さんと2人でコンソールの前に立ち、アクースモニウム演奏をする姿が斬新で、とても印象に残っています。
梅:はい、CCMCが初めての応募でした。あとINA-GRMのBanc d’Essaiなので、ほんとに2015年からですね。
渡:おお、ではこれまで出したものはすべて何かしら獲っているという…のっけから快進撃ですね!
梅:… ちょっとこわい気もしますね。
《これまでのこと》
渡:そもそも音楽をはじめたきっかけは?
梅:もともとピアノを習っていたのですが、それはやらされていた感じで、不真面目でした。自発的な契機は高校生の頃に始めたDJで、20歳の頃まではバトルDJのような事をしていて、大会とかにも出ていました。これはクリスチャン・マークレイやeRikmのような実験的なターンテーブリズムではありませんでした。
渡:意外ですね。その後の来歴も教えてください。
梅:並行してPCベースの音源制作を行っていたのですが、徐々にそちらにシフトしていきました。その頃から国内外のレーベルから作品を発表するようになって、グラスハープを使ったドローン作品とかアンビエントなど、3枚くらい出しました。最近だとAOKI Takamasaさん、Ryoichi Kurokawaさんなどの作品をリリースしているPROGRESSIVE FOrMというレーベルから作品を出してます。今は東京藝術大学大学院 先端芸術表現科の古川先生の研究室に在籍しています。今日はこれからドローイングの授業があります。授業のない日は制作とか、あと不定期で広告の音楽を作ったりもしています。
(photo by Ai Watanabe)
《プレスク・リヤン賞、応募から完成まで》
渡:今回の応募の経緯は?
梅前回のプレスク・リヤン賞2013で3位に入賞された佐藤亜矢子さんの活動から知りました。
それでプレスク・リヤン協会の本部サイトで過去作品を聞いて、興味を持って。
渡:リュック・フェラーリのことは知っていましたか?
梅:もちろんです。でも、知ったのは亡くなられてからですね。だからリアルタイムではなかったです。
渡:フェラーリ作品で特に好きなのはどのあたりですか?
梅:初期のコンクレート作品や、晩年のErikMとの共同作品などが好きです。 あとDJ OLIVE などとのコラボレーション作品など。音のカットアップがかっこよくて、自分との親和性を感じるとしたらそのあたりです。CDプレイヤーを6台使った作品「思い出の循環」も好きですね。
渡:サウンドファイルを聞いた時の印象は?
梅:まず素材を聞いた時に悪い意味では無く、録音の状態のこともあって音の粗さというか、マイクロスコピック的に捉えるんじゃなくてもっとざっくりとした捉え方をしたほうが合うだろうなと感じました。
※DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)の画面。(photo by Ai Watanabe)
渡:制作環境やプロセスについて教えてください
梅 : PCベースで、音源はシンセサイザーなどアナログ機材を使うことが多いです。DAWはAbleton Liveをメインに使っています。今回は全体で100トラックくらい重ねていて、一つ一つの音にオートメーションやEQを施しています。最初はただアーカイブが使えるのが嬉しくて、あれもこれも放り込んでしまいました。最終的に16個に絞り込まれたのですが、編集しているうちに成り行きで自然にそうなったという感じです。
渡:そんなに色々使っているようには聴こえませんでした。すっきりとシンプルなサウンドでしたよね。
梅:そうですね、細かい音の処理などが殆どなので。鳴っている音のレイヤーは10 - 20トラックくらいだと思います。
あとはファイルをダウンロードしてすぐには制作には取りかからずに、マレーシアで音を録ってくるまで待ったんです(編注:マレーシアについては後述)。マレーシアで録音した下水の音や、あとは網守くんがフランスで録ってきた地下鉄の音。その2つとフェラーリのアーカイブを統一感がでるように組み合わせています。
渡:たしかにアーカイブの声の使用が効果的で、前半の音のモチーフが中盤で声や足音と組み合わさるような構成もおもしろかったです。
※マレーシアで録った音を使用 (photo by Hideki Umezawa)
《"Le Néant"》
渡:タイトルの由来は?
梅:リュック・フェラーリの代表作として「プレスク・リヤン」が印象に残っていて、そこから何も無い状態への移行といいますか、つまりたくさん素材があって、録音された時期や文脈も異なっている。それらを一つ一つ汲み取って考えるのは無理だと感じて、陳腐な言い回しですが音は音そのもの、みたいな感じで使おうと。そうなるとフェラーリのやろうとしたものごとを無視してるというか、全く関連を持たない音同士が重なり合ったり、矛盾だらけになって制作行為自体が無意味なような気がしてきて… もう「無」でいこうかなって。応募時のライナーノートにはただ「衝突と非一貫性」とだけ書いて出しました。
渡:作品が完成してみていかが?満足されてますか?
梅:わりとそうですね。飽きずに聞けるようになってるかなと思います。
《デング熱にかかって…》
梅:プレスク・リヤン賞に出す直前、マレーシアに6日間滞在しました。mu-nestというレーベルのツアーで、ダムタイプの原摩利彦さん達なんかと一緒で。
クアラルンプール市街地の川の近くでフィールドレコーディングをしていた際に、蚊にさされてしまったんです。それで帰国後にデング熱になってしまって。
帰国してからすぐに制作に取り掛かろうと思ってたのですが、41度くらいの熱が出て病院に行き、大変でした。制作予定が大幅に狂ってしまいましたが、ボーっとしながら3日間で作品を仕上げました。ライブの予定や長野県諏訪でのフィールドワークなども重なっていたので、その期間でなんとか仕上げて。9月18日から20日のことですね。(…といって手帳を広げる)
渡:(梅沢さんの手帳を見て)すごい…!この予定表……!メッチャクチャ細かくスケジュールが書いてある...色分けもしてあるし!すごくキレイ、ショックなくらい…。
梅:自分でいうのもなんなんですけど、マメなんです。1日いくら使ったかとか、1日時間をどのように過ごしたかも全部書き留めています。
※バトゥ洞窟にて(photo by Hideki Umezawa)
渡:しかしデング熱は災難でしたね…。
梅:あと僕が行った時はマレーシア周辺でヘイズという煙害が発生している時期で、ずっとスモッグがかかっているような状態でした。で帰ってきたらそんな状態で、5kgくらい痩せてしまいました。だから受賞の報を聞いて一番に思ったのは、「デング熱にかかったのが報われたかな」って(笑)
※ヘイズでくもる街並(photo by Hideki Umezawa)
《いろいろ聴きます》
渡:他に影響を受けた作曲家やアーティストなどは?
梅:僕はとにかく沢山の音楽に触れた方が良いと思うタイプなので、触れるものすべてに影響を受けていると感じています。コンクレート作品もずっと掘り下げてみたり、今のシーンだとポストインターネットを背景としたベースミュージックとコンクレートの接合みたいなのものもあって。僕もそういうところは意識して聴くようにしています。
渡:そういった情報の収集はどういった手段で?
梅:やっぱりネットですね。あとは海外から音源や書籍を取り寄せたりしてます。
フェラーリ作品をずっと扱っているメタムキンや、Rumpsti Pumsti 、Soundohmとかをよく利用しています。
《今後の予定》
梅:12月20日にInterCollege Sonic Arts Festival でのコンサートがあります。京都精華大学で行われます。受賞作も発表する予定です。
渡:今回のインターカレッジはJSSA研究会 との併催(なんですよね。梅沢さんの出演するコンサートは17時からです。その前の15時からの研究会では、前回のプレスク・リヤン賞で3位を獲られた佐藤亜矢子さん、わたくし渡辺、そしてプレスク・リヤン賞審査員のおひとりでありプレスク・リヤン協会日本支局長である椎名亮輔先生の3名が、フェラーリに関わる公演を行います。12月20日の京都精華大学は、フェラーリで熱いことになっていますね!
梅:あとは12月23日にPROGRESSIVE FOrMというレーベルのイベントに出演します(場所:恵比寿のkata)。
それから来年の春頃にイギリスのレーベルから作曲家の網守くんとの共作アルバムが出ます。
(photo by Ai Watanabe)
梅 : 今は修士1年なのですが、来年度は休学して色んなことをやりたいなと考えています。
プ:1年生なんですね!そうは思えないくらいの貫禄ですね。
梅:藝大には入学前から顔を出していたので…。だから僕、渡辺さんに会ったのもじつは結構前で。
渡:えっ、CCMC2015が最初ではなかったですか!?
渡:AMCでやっていたサウンドプロジェクトに行ったんですけど、渡辺さんがそこでサウンドインスタレーションをやっていて。ラボですれ違って、古澤(龍)くんが「渡辺さんだよ」って紹介してくれて。あのへんから僕、藝大に出入りしてました。
渡:そうだったのですね!それは失礼しました&ありがとうございます(笑)2012年ですね。あの時期が一番真剣に制作してたかもしれない(苦笑)
※調子に乗って自身のフェラーリ研究について話しだす渡辺。フェラーリの使用したDAW環境の画像を指しているところを、梅沢さんに逆撮影されていました!
渡:今日は楽しいお話が聞けてよかったです。ますますのご活躍をお祈りしています。今日はありがとうございました!
梅:こちらこそ、ありがとうございました!
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