リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)

フランス現代音楽における重要な作曲家の一人である、リュック・フェラーリ(Luc Ferrari:1929~2005)に関する情報を主に日本語でお伝えします。プレスク・リヤン協会(Association Presque Rien)は彼の友人達によってパリで設立されました。現在もその精力的な活動の下で続々と彼の新しい作品や楽曲、映画、インスタレーションなどが上演されています。 なお、より詳しい情報は、associationpresquerien@gmail.comまでお問い合わせください

リュック・フェラーリ生誕90周年記念!< Luc Ferrari "Eight Days A Week" in London その2>

 

 

 

全国二万五千人超のリュック・フェラーリファンのみなさま、こんばんは!

 

リュック・フェラーリ(Luc Ferrari 1929-2005)生誕90周年と本< STEREO SPASMS >の出版を記念して開催されるフェスティバル< STEREO SPASMS FESTIVAL CELEBRATES THE NINETIETH BIRTHDAY OF COMPOSER LUC FERRARI  >(@Cafe OTO, London 2月7日〜)、前回の記事では同じくロンドンにあるClose-Up Cinema でのリュック・フェラーリ映画特集(@Close-up Cinema, London 2月7日〜)をご紹介しました。

 

今日はいよいよ、8日間にわたるCafe OTOでのコンサートプログラムをざっとですがご紹介していきます。

Cafe OTOについては2017年、Brunhild Ferrari Concert - Cafe OTO ( London UK ) 2017でご紹介しております。ぜひこちらもご覧ください。

(文中敬称略)

 

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< Cafe OTO Official Poster > 

 

www.cafeoto.co.uk

 

 

 

ブレグジットに揺らぐロンドンで今、最も自由かつ重要なオルタナティヴなライブスペースのひとつであり、世界中からありとあらゆるアーティストが出演するアートスペースCafe OTO

そのCafe OTOと Close-Up Cinema で2月の7日から14日までの8日間にわたって開催される、前代未聞のリュック・フェラーリ・フェスティバル、それが

< STEREO SPASMS FESTIVAL CELEBRATES THE NINETIETH BIRTHDAY OF COMPOSER LUC FERRARI 

今回のイベントを全面的にサポートしているサーストン・ムーアを初めとして、超豪華な出演アーティストが毎日リュック・フェラーリの作品を演奏するという、贅沢かつ驚きの8日間です!

 

 

圧倒的ともいえる規模とゲストによる「STEREO SPASMS リュック・フェラーリ生誕90周年フェスティバル」、フェスがこれほどの規模に成長した理由はどこにあったのでしょうか?

その秘密は

リュック・フェラーリ夫人であり、協働作業者でもあった作曲家ブリュンヒルドフェラーリ(Brunhild Ferrari)の力強い夢想と、ほんものを見抜く鋭いまなざし。

・サーストン・ムーア(Thurston Moore )と、現在のサーストンのパートナーである編集者のエヴァプリンツ(Eva Prinz)の共同体による素晴らしいセンスと、世界中に張り巡らされた人的ネットワーク。

・そして、層の厚い良質なオーディエンスと、ボーダレスなアーティストに支えられ、かつ経験と実行力を伴ったカフェ・オト Cafe OTOの企画力。

 

そして一番大切なことは、この3者の力強い信頼関係。

この音楽と芸術を愛するごまかしのない信頼関係こそが、このフェスティバルの実現に際して最も重要なことであったのだろうと推察できます。

 

(このフェスティバル開催の推進力となった、サーストン・ムーアとエヴァプリンツによる出版社Ecstatic Peace Library から近日出版されるリュック・フェラーリの< STEREO SPASMS >(仮)については詳細が分かり次第、お知らせしていきます)

 

 

今回の8日間のフェスティバルは「これこそフェラーリの魅力!」ともいえるような、隅々まで練りに練られたプログラムになりました。

一癖も二癖もあるアーティストが結集しながらも、見れば見るほど納得のしてしまうプログラム。

クラシックもロックもポップもアカデミズムも、矛盾や不整合さえも軽々と乗り越えてしまう、リュック・フェラーリの軽やかにして深い人間味が感じられるプログラムです。

そしてこのフェスティバルが、よくある「終着点」や「到達点」のような手あかのついた表現をされるものでは決してなく、波紋の広がりの一点のような感さえ受けるのも、またいかにも(表向きは)ひょうひょうと生き、またこれからも聴かれ続けるであろう作曲家リュック・フェラーリの90周年らしい、と言えるのではないでしょうか。

 

それでは早速この8日間のプログラムを見て行きましょう。時間はすべて19:30からです。

 

【1日目】

まず2月7日はTania Chen , David Toop , Jon Leidecker (Wobbly) , THURSTON MOORE & MORE PERFORM MADAME DE SHANGHAI (1996) & MORE

 

"John Cage: Electronic Music For Piano"のメンバーによってフェラーリの「上海夫人」+?を演奏するという興奮のオープニング。

タワーレコードのレビューをご紹介しておきます。

タニア・チェン/John Cage: Electronic Music For Piano (Feat. Thurston Moore, David Toop & Jon Leidecker) - TOWER RECORDS ONLINE

日本ではサーストン・ムーアといえば、解散したソニック・ユースや、現在のサーストン・ムーア・バンドのリーダーであり、ギタリストとしてのイメージが強い一方、ものすごいレコードやカセットマニアとしても有名で、そのマニア性をもひっくるめて、日本の音楽ライターなどからも相当に注目され続けています。

また、その鋭い音楽センスはジャンルにはめこまれることもなくとても自由で、以前からも音楽的実験に対して貪欲であったことも知られています。

 

このフェスティバルでも要となっているサーストンが、フェラーリのどういったところに魅かれ、感応し、照応する部分があったのかなどは、フェラーリファンに限らず、音楽ファンにとっても、とても興味深いところではないでしょうか。

それこそは言葉にならないものかも知れません。しかし、そんな深い部分が、この日の演奏からは伺えることになるでしょう。

そして、なにより今回のプログラムには、サーストン・ムーアからリュック・フェラーリへの、なみなみならぬ思いと愛情が込められていることは疑いようがありません。

今のサーストンのパートナーであり、800ページにも及ぶ大著「MUSICSーA British Magazeine of Improvised Music & Art 1975 - 79」をまとめあげた腕利きの編集者であるエヴァプリンツは、今回の< STEREO SPASMS >(仮)の編集を担当するだけではなく、このフェスティバルの開催にも大きく関わっています。

 

 

www.instagram.com

Toopとの2ショット。

 

 

【2日目】

2月8日はeRikm & Scanner (Robin Rimbaud)  PERFORM EXPLOITATION DES CONCEPTS N°1 (2000) + ERIKM & THURSTON MOORE PERFORM LES PROTORYTHMIQUES (2004-2005)

 

リュック・フェラーリの若き盟友であったeRikmと、ツイッターで2002年に協働作業をした時の写真をアップした

 

Scannerによる「概念の開拓1(水から救われたアーカイブ)」。

DJとしてだけではなく、作曲家、音響彫刻など幅広い作品を発表しているeRikmと、その挑戦的な冒険のスタイルを続けているScannerのコラボレーションは想像するだけでもドキドキしますが、また同じ日にサーストン・ムーアとeRikmによる「原リズム的なもの」がプログラムされているというだけで、ヤバさ半端ない感じですね。

 

【3日目】

2月9日はXenia Pestova PERFORMS COLLECTION DE PETITES PIÈCES + Steve Beresford  ENSEMBLE PERFORMS ETUDES D'IMPROVISATION

 

前半2日とはまた違う、リュック・フェラーリの魅力が味わえる夜になりそうです。

フェラーリ作品の中でもとびきりのこまっしゃくれたピアノ曲「小品コレクション、あるいは36の続き、ピアノとレコーダーのための」(1985)はたくさんのコンサートで演奏されていて、レポートをお伝えしてきました。また、いくつもの演奏で音源化されている「即興のエクササイズ」(1977)、昨年Walter Prati,Francesca Gemmo, Sergio ArmaroliでCD化された記事で覚えておられる読者の方もおられるかもしれません。

パフォーマーによってまったく違う輝きを見せる作品。今回はどうきらめくのかとっても楽しみ。

 

 

【4日目】

2月10日はApartment-House PERFORM DIDASCALIES (2004) + CELLULE 75, FORCE DU RHYTHME ET CADENCE FORCEE (1975)

 

イギリスのエクスペリメンタル系芸術ユニットApartment House が「ディダスカリーズ」と「細胞75、リズムの力と強制されたカデンツ」を演奏する一夜。

メンバーのAnton Lukoszeviezeは昔リュック・フェラーリと仕事もしたことがあるとのことです。

エクスペリメンタル系ということなので、むちゃくちゃ迫力のある生音パフォーマンスが見られるかもしれませんね。

 

 

【5日目】

2月11日はLangham Research Centre  + L’ESCALIER DES AVEUGLES – ANDREA ZARZA, Jacqueline Caux  & ANDREA COHEN IN DISCUSSION ON LUC FERRARI'S RADIOPHONIC WORKS

 

Langham Research Centreは昨年10月に来日し、このフェス最終日の14日に出演するジム・オルーク、カッセル・イエーガーらと共に 六本木スーパーデラックスでのイベント(Musicity Live Tokyo Presents)に出演しました。その来日時の神戸・塩屋の旧グッゲンハイム邸さんの説明がとてもわかりやすいです

Langham Research Centreによる「盲人の階段」(1991)のパフォーマンス、1991年のイタリア賞受賞作ですが、この作品は先日レコード化されています。

 

 

manarecords.com

 

 

(懐かしい記事→「リュック・フェラーリ銀盤解説大作戦」【第五回】

この日はまた、リュック・フェラーリのヘールシュピール(ラジオ・アート音響、ラジオフォニック・ワーク、ラジオ・ドラマ)についてのディスカッションも行われます。会場にはフェラーリ夫妻の長年の友人であり、「リュック・フェラーリとほとんど何もない」を始め、数々の音楽ドキュメンタリー映画を監督しているジャクリーヌ・コーと、「Le Banquet」が展示されたマドリッドでのCharivaria展の記事でも登場したANDREA ZARZA、そしてヘールシュピールスペシャリストであるAndrea Cohenという三人を迎えます。音響を軸にした、三人三様のリュック・フェラーリへのアプローチがどのような話になるのか、興味をそそるトークになりそうです。

 

【6日目】

2月12日はÁine O'Dwyer & GRAHAM LAMBKIN PERFORM < UNHEIMLICH SCHON> (1971) + Ashley Paul ENSEMBLE PERFORMS <LES EMOIS D’APHRODITE >(1998)

 

相当刺激的なプログラムになりそう。

GRAHAM LAMBKIN の2枚組CD<Community>についてのCDショップFtarriさんの わかりやすい解説をみましたが、「全体に不穏なムードが立ちこめるが、人間味をも強く感じさせる、Lambkin 独特の世界を構築している」とされるLamkinの演奏作品が「不気味に美しい」(1971)ときて、Áine O'Dwyer Wikipediaを読めば、期待しない訳にはいきません。

そしてこの日もぜいたくな二本立ては続きます。

この日Ashley PaulENSEMBLE によって演奏されるのは「ヴィーナスの感激」(1986 - 1998)です。

 

【7日目】

2月13日はDAVID GRUBBS & APARTMENT HOUSE PERFORMS <TAUTOLOGOS III VERSION NO. 4> (1969) + <BONJOUR COMMENT ÇA VA? >(1972-79) + <TAUTOLOGOS III>

 

10日にパフォーマンスを行う APARTMENT HOUSE を再び迎える一方で、13日に初登場するのはフェラーリ夫妻とも親交の深いデヴィッド・グラブス。”Far-West News"や ”Impro-Micro-Acoustique”などの一連のBlue Chopsticks (Drag City) レーベルからフェラーリ作品をリリースしてきただけでなく、博士論文でもあった好著 ”Records Ruin the Landscape”(レコードは風景をだいなしにする ジョン・ケージと録音物たち 」、フィルムアート社 2015)でもフェラーリについて章を割いています。

演奏する作品は1969年の「トートロゴス Ⅲ、あるいは私と同語反復するのはいかがですか?」、当ブログで「CNES(フランス国立宇宙研究センター)で、L'Ensemble Laborintus が演奏したことも紹介した「こんにちは、お元気?」、そして「トートロゴス3」(1970年)。

最近ではミラノ、アルセナーレ劇場での"Tautologos Ⅲ"コンサートもものすごい人気でしたが、イギリスでどのような形で上演されるのか想像もつきません。

 

 

 【8日目】

最終日、聖バレンタインデーとなる14日のプログラムはLIVE DIFFUSION BY Kassel Jaeger OF <PRESQUE RIEN II> (1977) & <PETITE SYMPHONY> (1962-64) & Jim O'Rourke(PERFORMING REMOTELY) PERFORMING <EPHEMERE> (1974) + BRUNHILD FERRARI IN CONVERSATION WITH DAVID GRUBBSで、このフェスティバルもいよいよフィナーレを迎えます。

 

ダニエル・テルッジの後を引き継いでGRMのディレクターに就任したフランソワ・ボネは、音楽研究の著作を出版し、パリで数々の良質なイベントを仕掛ける一方、Kassel Jaeger 名義でまた音楽制作やコンサートに出演するなど、非常に意欲的に活動しているアーティストでもあります。これまで来日コンサートも行っていますので、ご存知の方も多いでしょう。

ここ最近のGRMによる意欲的な音楽イベントは、当ブログでもリュック・フェラーリ没後10年のコンサート等、これまで多数紹介してきました。

 

 

association-presquerien.hatenablog.com

リュック・フェラーリ没後10年。パリでの”Concert-hommage à Luc Ferrari”

 

association-presquerien.hatenablog.com

70 ANS DE LA MUSIQUE CONCRÈTE 60 ANS DU GRM(ミュージック・コンクレート70周年、GRM60周年コンサート)とピエール・アンリのコンサート(パリ)

 

今回は1977年の「ほとんど何もない第2番『こうして夜は私の多重頭脳の中で続いていく』」と、1昨年、Recollection GRMシリーズ16作目として Hétérozygote (異型接合体)カップリングされた「春景色のための直感的小交響曲」でこのフェスティバルに登場します。

 

そしてもう読者の方には説明する必要もないほど有名なジム・オルークソニック・ユース ではサーストン・ムーアと、またガスター・デル・ソル ではデヴィッド・グラブスと、そしてもちろん、ソロやユニット、そして数限りないアーティストと共演してきました。

彼とリュック・フェラーリのつながりは意外に古く、1980年代にパリで出会っているそうです。もちろん2014年に来日したブリュンヒルド・フェラーリと、六本木スーパーデラックスで共演したことは当ブログの読者の方にも強い印象を残しています。

今回のプログラムでは「つかの間の」(1974)を<PERFORMING REMOTELY>という形で登場すると紹介されています。どのような形態なのかはまだ不明なものの、間違いなく聞き惚れる音を楽しませてくれることでしょう。

そして、ジム・オルークは、< STEREO SPASMS >(仮)の元本である2017年にフランスで出版された<Luc Ferrari, Musiques dans les spasmes, Écrits (1951 – 2005) >にも美しい序文を寄せています。今回の< STEREO SPASMS >(仮)にももちろんその序文は収録されています。

 

 

最終日の大トリには、このフェスティバルのフィナーレにふさわしく、ブリュンヒルドフェラーリとデヴィッド・グラブスの対談が予定されています。

もしリュック・フェラーリが生きていたら、間違いなくレコーディングするような、小粋な対談になることでしょう。

 

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サーストン・ムーアがパリのSouffle Continue を訪問した際のインスタグラム。レコードをチェックするブリュンヒルドフェラーリ

 

 

フェラーリ90周年であり、没後14年ともなる年の最初に、これだけの規模のフェスティバルがパリではなくロンドン、そしてクラシックなコンサートホールではなく、Cafe OTOで開催されるということは、リュック・フェラーリの作品の魅力を考える時にとても示唆的であると思えます。

 

 

 

 

 

【関連過去記事】

リュック・フェラーリ生誕90周年記念!< Luc Ferrari " Eight Days A Week " in London その1> - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)

 

リュック・フェラーリ没後10年。パリでの”Concert-hommage à Luc Ferrari” - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)

 

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Luc Ferrari Musiques dans les spasmes, Écrits (1951 – 2005)(「痙攣の中の音楽」)レビュー - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)

 

「宇宙旅行のリュック・フェラーリ」 - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)

 

特集:ブリュンヒルド・フェラーリ来日企画2014ルポ(その2) - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)