リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)

フランス現代音楽における重要な作曲家の一人である、リュック・フェラーリ(Luc Ferrari:1929~2005)に関する情報を主に日本語でお伝えします。プレスク・リヤン協会(Association Presque Rien)は彼の友人達によってパリで設立されました。現在もその精力的な活動の下で続々と彼の新しい作品や楽曲、映画、インスタレーションなどが上演されています。 なお、より詳しい情報は、associationpresquerien@gmail.comまでお問い合わせください

「受賞者が語る<Prix Presque Rien(プレスク・リヤン賞)2017>」(前編)

 

全国二万五千人超のリュック・フェラーリファンのみなさま、こんばんは。

 

リュック・フェラーリの遺した録音アーカイブを使用した芸術作品によって競われる,

二年に一度開催される国際コンクールPrix Presque Rien (プレスク・リヤン賞)。

 

昨年末に開催されたPrix Presque Rien2017における受賞作品(全10作品)は、現在この記事で試聴していただけます。

 

今日は「受賞者が語る<プレスク・リヤン賞2017>」(前後編)として、4人の受賞者の方に、ご自身の受賞作の制作過程や、この賞の魅力について語っていただきたいと思います。

 

Prix Presque Rien 2017 

 

Mention Spéciale

・ < Nylon line > (6’05) Haku Sungho (白承昊)

 

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・今回の作品「Nylon Line」を制作するにあたっての動機を教えてください。

 

 ー2年ほど韓国の釜山で暮らしていました。海が自宅から近かったのでよく投げ釣りをしにでかけました。

投げ釣りでは着水した錘(おもり)が海底へ沈む時間で深さを測り、岩や海藻、潮の流れをかいくぐって、魚が喰らいつく瞬間を待ちます。

水中の情報が、たった一本のナイロンの糸のテンションを通して伝わります。

その身体に響く感覚を音楽として表現できないかということが始まりでした。

釣り竿にコンタクトマイクを付け録音しています。

 

・作品制作にあたって、どのようにしてアーカイブを選ばれたのでしょうか。

 

ー 最終的には、僕自身がフィールドレコーディングした音とリュック・フェラーリアーカイブとの関係性について考えながら選んだものです。

例えば、海水と淡水が音の層として重なったり離れていくというような。

それぞれの音にリュック・フェラーリの意図が、かなりしっかり感じられたので、アーカイヴの長さには手を出さないということ、そして、身体そのものを、糸を通した楽器(エオリアンハープのような)とみなすことが大事だったので、いわゆる楽器の音は使わないという制約を課しました。

 

 

・プレスク・リヤン賞はあらゆる芸術作品での応募が可能なのですが、まだまだ作曲作品での応募が多いのです。この作品は映像として製作されましたね。

 

ー まず、作品が映像ではあるのですが、作曲として、視覚も音も同じ要素として捉えたいと思って制作しました。実際、釣り糸が竿を通して伝わる感覚は五感の内、どの感覚に細分化されるというよりは、かなり複合的なものです。

最終的に映像となった理由はいくつかありますが、一番はじめにこの作品を鑑賞する人(ブリュンヒルドさんと審査員の方々)、リュック・フェラーリそして自分自身がどういう作品だったら面白いと思うだろうか、ということは考えていました。そして、作品の形態は自由というところにこのコンクールの魅力、もしくは意図があると思います。こういったコンクールは初めてで、普段の制作とは逆に最初の聴衆のことを想像できるという点で(もちろん審査員の為だけに制作しているということではない)、本当に音データが自分の作品形態としてベストなのか考える機会となりました。映像以外にも候補はありました。

釜山からベルリンへ引っ越すことになったので最後に海を記憶したいという想いと制作の時期が重なったということもあるかもしれません。

 

・「どういう作品だったら面白いか」というのは素敵なアプローチだと思います。そこで最後の質問なのですが、「釣り」というのは最初からコンセプトの延長線上にあったものなのでしょうか。

 

リュック・フェラーリのアーカイヴを聴きながら作品のコンセプトを先に練りました。最初に水の音が軸になって、それじゃあ釣りでもするかと。

 

・ もしウェブサイトをお持ちでしたら教えてください。

 www.hakusungho.com

 

vimeo.com

 

Deuxième Prix < No more Noise > (32’04) Yoann Sanson <ヨアン・サンソン>

 

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・あなたの音楽における個人的な関心事を教えてください。

 

ー 私は世界中の音に魅了されているので、伝統的なアコースティック楽器や電子楽器と同じように、自然音(録音された音)も自分の作品に取り入れています。「フィールド・レコーディング」と「楽器の音」を対比させたり組み合わせたりすることが大好きです。具体的なものと抽象的なものの間にある境界線に聴衆を導きたいと思っています。作曲する際は、聴衆にじっくりと耳を傾けてもらうために、時間のコントロールに細心の注意を払います。作曲の初期段階では不確定なところを残しますが、あとで音楽的・音響的なものをきちんと書き上げます。

私は非常に経験的な方法(言い換えると、その作品を左右する音やノイズが自分にもたらす感覚)で作曲しています。

たいていの場合、 音響世界にある特異性の巨大な裂け目をもう少し拡大しようとか、これまで聴いたことのないものを聴かせよう、聴衆の感情を揺り動かしてみせようと試みています。

 

 

リュック・フェラーリの音楽について、どういったところに惹かれますか?

 

ー自由と喜び——これがリュック・フェラーリの音楽に対する、私の印象です。

彼は音楽的な音と指示的な音の間を自由に行き来するような自由さを持ち合わせています。物語風の筋書きに聞き手を誘導しつつ、それに気付かせることなく作品の中に引きずり込むのです(例えば《ほとんど何もない第2番》のように)。また一つのタイプの美学に閉じ込められてしまわない、という自由でもあります。

リュックは、まるで美食家のように、音楽を書くことによって大きな喜びを得ているように思います。最も概念的な作品でさえ感受性に満ちあふれているし、情感豊かな表現力を感じさせます。

リュックは私にとっても最も印象深い現代作曲家の一人です。

 

・ あなたのウェブサイトを教えてください。

Yoann Sanson - Accueil

www.ysson.net

 

 

 

vimeo.com

 

・your personal concerns in music

 

Fasciné par la richesse du monde sonore, je puise les matières de mes compositions aussi bien dans des prises de sons naturalistes (phonographies) que dans le jeu d’instruments traditionnels acoustiques et électriques. « Field recording » et « instrumental » sont deux domaines du sonore que j’aime faire dialoguer et se rejoindre. 

J’essaye de tenir l’auditeur à la frontière entre le concret et l’abstrait, le son qui raconte et le son qui laisse imaginer. 

Une grande attention est portée à la maîtrise du temps dans mes oeuvres afin de tenir l’écoute en éveil

Si il y a une place laissée à l’aléatoire dans les premières étapes de mon processus de fabrication, l’ensemble des évènements musicaux et sonores est ensuite totalement écrit. 

Je compose de manière très empirique, ce sont les sensations que me procurent les sons et les bruits enregistrés qui dirigent le projet.

De manière générale, j’essaye de creuser un peu plus le gouffre immense des singularités du domaine sonore, donner à entendre des choses jusque là inouïes et faire bouger les émotions de l’auditeur.

 

 

・About Luc Ferrari, which are his characteristics that you are most interested in?

 

Liberté et Plaisir, voici les deux caractéristiques que je retiens de la musique de Luc Ferrari.

Une liberté avec laquelle il navigue entre des sons musicaux et des sons référentiels. Emmenant l’auditeur dans une histoire narrative, on se retrouve immergé dans une musique puissante sans s’en rendre compte (Presque Rien N°2, par exemple). La liberté aussi de ne pas se laisser enfermer dans un seul type d’esthétique.

Il semble puiser un grand plaisir dans le jeu de l’écriture musicale, c’est comme une gourmandise. Même ses projets les plus conceptuels sont marqués par une grande sensibilité et donnent à ressentir une large palette émotionnelle. 

Il fait partie des compositeurs contemporains qui m’ont le plus marqué.

 

 

 

次回はPremiers Prix の柳沢耕吉さんとアレクサンドル・オムランさんをご紹介します!

 

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