リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)

フランス現代音楽における重要な作曲家の一人である、リュック・フェラーリ(Luc Ferrari:1929~2005)に関する情報を主に日本語でお伝えします。プレスク・リヤン協会(Association Presque Rien)は彼の友人達によってパリで設立されました。現在もその精力的な活動の下で続々と彼の新しい作品や楽曲、映画、インスタレーションなどが上演されています。 なお、より詳しい情報は、associationpresquerien@gmail.comまでお問い合わせください

リュック・フェラーリの「段ボールからひとつぼし」(その5 蘇韻蘭の妻証夫凶 )

全国二万五千人超のリュック・フェラーリファンのみなさま、こんばんは。

 

今月の『ダンボール箱からひとつぼし』、実は大変なことになってしまっています。

 

「漢字だから」とパリの本部より渡された資料写真がどんぶらこっことたらい回しにされつつこちらに流れ着いて盤面を睨むこと約半月、優秀な探偵もいないまま年末のゴタゴタに紛れひっそりとお届けすることになりました月イチの恒例企画「リュック・フェラーリの『ダンボール箱からひとつぼし』」です。 

 

この企画は先日フランスで発見されたリュック・フェラーリの個人レコード・コレクション(「段ボール箱から救われたアーカイブス」”Les Archives Sauvées des Boîte en Carton Ondulé”)から 鼻唄混じりに 完全無作為に抽出された1枚を紹介し、「うわわ、懐かしい!」とか「リュック・フェラーリって、こんなのも聞いてたの?」など、美味しくお酒をレコードを聞いていただくための企画です。(この名称の元ネタはもちろん、TOKYO FM山下達郎さんの『サンデーソングブック』の名物コーナーである「棚からひとつかみ」からパクリ に触発されたタイトルです)

(なお、アーカイブの幅広さに担当者が本気で終了宣言を考えつつあるこのコーナー、「ぼくにまかせろ!」「私にまかせといて!」「情けないなぁ、よしよし、レコードのことなら一つこの儂が……」という方を大募集しております。ご興味のある方はぜひ日本支局メールアドレスまでご連絡ください!)

 

本日のレコード(SP)はこちらになります。

 

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ジャケットはなかった様子です。

このレコードはドイツで制作されたODEONレーベルのSPレコードで、その後輸入版としてフランスのRadiofusion Francaiseに入り、何かしらの経緯でリュック・フェラーリの手元に入ったようです。

シャルル・ヴォルフという人のコレクションだったのがいつなのか特定できません。シャルル・ヴォルフといえばフランスの天文学者ですが、1918年に没していることから、彼の持ち物ではなく、おそらく同姓同名のどなたかのものであったと思われます。

裏面(二段)がこちらです。

 

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この「高亭」というのはODEONレコードの中国語読みだそうです。1931年に中国でプレスが始まり、中国製に関してはこの「徳国造」(ドイツ製)という表記がなくなりますが、それ以前はドイツで製造されていたようです。(このレコードの盤の情報をこのサイトから比較して考えてみると、1925年製のものである可能性が高いと推察できます)

当時の国際情勢からオデオンレコードについてを調べてみるのも楽しいかもしれません。

 

このレコードについてはドイツから輸出された際、輸入国での検印があり、それで「F」のスタンプが押印されたのでしょう(これは車と一緒ですね)。また盤面左上部には「ドイツから輸入された」旨のしっかりした刻印があります。この時代、ヨーロッパはまだまだ輸出入に関して厳しかったことが伺えます。

つまり、このレコードはおそらくリュック・フェラーリが産まれる前のレコードのようです。

後にこのレコードはアメリカでも製造され、先程のリンクの元サイトでは米国版のレコードの写真を見ることができます。

 

「蘇韻蘭」という女性はどうやら当時上海で高名だった遊女のようですが、これが彼女の吹き込みによるものなのか、それとも彼女についての曲なのかについてもはっきりとはわかりませんでした。(ひょっとしたらそのいわくからリュック・フェラーリが彼女の声を手に入れたかった……ということは十分考えられるような気がします。また、ひょっとしたら「上海夫人」を手がける際に彼がこのレコードを参考にした可能性も十分あるのではないか?と思ったりしますが、その場合は誰かが彼にその情報を手ほどきする必要があります。中国文化にある程度の理解のある友人となると……さて、こういうところに何か意外なつながりが見えてくるかも知れませんね)

ところで、この「妻証夫凶」という言葉をある翻訳ソフトにかけてみると「激しい夫の妻症候群」と訳されていました。実にステキなタイトルですが、おそらく意味は違うのでしょうね。

またここに「唯一花旦 広東」とあるのはおそらくこの女優が広東語(この頃はまだ普通話はなかったようです)で歌っている程の意味だと思われます。

世界中が戦争へのきな臭さをどんどんと増してきた時期に発売されたこのレコード、さあいったいどれほど爛熟で妖艶な歌声が入っているのか、またリュック・フェラーリはこのレコードを聴いてどのようなことに思いを巡らせたのか、さらにいつ、どこで、このレコードを手に入れたのか、謎は深まるばかりです。

 

このレコードについてより詳しくご存知の方はコメント欄、またメールなどでぜひご教示ください。

 

 

 

それでは、また来月の「リュック・フェラーリの『段ボールからひとつぼし』」でお会いしましょう(できるのかな?)

 

なお2014年のブログはこれが年内最後の更新になります。

リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)」も先日でとうとう3年目になりました。リュック・フェラーリという作曲家に焦点を絞ったブログに対し、当初想像していた以上の閲覧をいただけておりますことを深く御礼申し上げます。

 

 

来年も引き続き、ますます充実した内容でお届けしていきたいと思っています。

 

2015年は1月10日頃の更新を予定しています。

 

 

それではみなさま、よいお年を!

 

 

 

(管理人:プレスク・リヤン協会日本支局 広報担当)

 

 

【関連過去記事】

 

リュック・フェラーリの「棚からひとつぼし」 - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)

 

リュック・フェラーリの「ダンボール箱からひとつぼし」(その2 François Beranger - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)

 

 リュック・フェラーリの「ダンボール箱からひとつぼし」(その3 FERRARI ) - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)

 

リュック・フェラーリの「段ボールからひとつぼし」(その4 PACIFIC GAS AND ELECTRIC ) - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)

 

 

このプロジェクト『段ボール箱から救われたアーカイブス』”Les Archives Sauvées des Boîte en Carton Ondulé”はプレスク・リヤン協会により行われています。

 

 

プレスク・リヤン協会ではみなさまの暖かいご支援を心よりお待ちしております。

詳しくはこちらのリンクをご参照ください。

 

 

「プレスク・リヤン協会」(Association Presque Rien)案内 - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)

 

「プレスク・リヤン協会への入会も更新も、とても簡単に!」 - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)