全国二万五千人のリュック・フェラーリファンのみなさま、こんばんは。
今日の「フェラーリ地帯(ライン)」では、リュック・フェラーリが作曲し、出演もした映画” SPONTANE Ⅳ ”(ジェラール・パトリス監督)について、新しい写真の資料が手に入りましたのでちょっとだけ紹介と解説をしていきたいと思います。(この映画は昨年パリにあるレコードショップ、"souffle continu"で上映された際に簡単に触れましたので、ご記憶の方もいらっしゃるかと思います。)
ジェラール・パトリス監督はリュック・フェラーリとともに「大いなるリハーサル」を制作したことでも知られていて、また機会を見てこのブログで取り上げていきたい人物の一人です。
この「スポンタネ4」はリュック・フェラーリがアマチュア演奏者とプロ演奏者のために1962年に作曲しました。(「スポンタネ」って語呂がちょっとかわいいですよね)
この作品は各番号毎に組み立てられた図形楽譜によりそれぞれの指揮者の指揮の下、アマ側が演奏するパートのひとつひとつに、指揮者を挟んで対面するプロ側が即時に対応して音を出していく、という「オーケストラの川中島決戦」のような、また見方を変えれば、ちょっとオトナの恋愛の駆け引きのようにも見える、不思議でユニークな作品です。
そこでさっきの spontané の意味が効いてきます。「自発的な」、「自然発生的な」が辞書の意味になりますが、ここでは「即応する」くらいになるでしょうか。
フランス国立放送の中にG.R.M(音楽探究グループ)という部門を作っていたピエール・シェフェールは映画や映像に対しても強い興味を持っており G.R.I(映像探求グループ)という部門を立ち上げようとしていました(当時毎週金曜日のG.R.Mの会議ではクリス・マルケルの作品を始めとして、さまざまな映像作品が紹介されていたといいます。余談になりますが、このG.R.Iの初期に相談役として参加していたのがジャック・ブリソで、またブリュンヒルド・フェラーリもこの部門で一時期仕事をしていたことがあります)
シェフェールのこの映像に対する興味を知ったリュック・フェラーリは友人のジェラール・パトリスとともにこの作品を撮影することをピエール・シェフェールに提案しました。
企画が認可され、16ミリモノクローム作品として撮影されたのがこの「スポンタネ4」です。しかし当時の諸事情から公開されることはなく、いつの間にかフィルムの行方さえ不明になってしまったのでした。(さて、この作品に関してリュック・フェラーリは生前『35ミリカラーによる作品が制作された』としていたそうで、プレスク・リヤン協会による公式作品リストにもそう記載されています。ただこの「カラー作品」を見た人は関係者にはおらず、また何度も捜索が繰り返されたにも関わらず、未だにこのカラー作品の方は行方不明ということです。まさに幻の作品と言えるでしょう、もし存在するならば……)
長らく所在不明になっていたこの「スポンタネ4」ですが、昨年ジェラール・パトリス監督の娘であるイブ・シェフェール・パトリスさんが倉庫からこのモノクロームのフィルムを発見しました。
経年劣化による傷みなどもあったものの、なんとかデジタル化に成功し、それが上映されたのが昨年のブリュンヒルド・フェラーリによるインストア・ライブでした。
この作品はプロ側に指揮者としてコンスタンタン・シモノヴィッチを迎え、演奏に「大いなるリハーサル」にも出演したSylvio Gualda(彼はストラスブール・パーカッション・グループの中心的存在であり、クセナキス等の作品に欠かせない人物です)や Diego Masson(アンドレ・マッソンとシルヴィア・バタイユの姉の息子である彼は指揮者、作曲家であり、Music Vivanteの創設者です) がパーカッションとして、またJacques Wiederkehrなど豪華なメンバーが集められました。
また対するアマチュア側にはリュック・フェラーリの指揮の下、ジェラール・パトリスの友人で、後にリュック・フェラーリの「思い出の循環」の撮影に広大な南仏の自邸を提供したフィリップ・ミュクセル(彼はフランスの政治学者であり、“La Muse en Circuit”(「回路の詩神」協会)の会長でもあったアンヌ・ミュクセルの父でもあります)、昨年鬼籍に入ったパルメジャーニ、その横にLa belle Simone’s ことSimone Etienne(彼はリュック・フェラーリが「ほとんど何もない」を取るきっかけになったユーゴスラビアの友人の友達だった歯科医のガールフレンド……なんだかよくわかりませんが、とにかく美しい方だったそうです……)、さらにはブリュンヒルド・フェラーリまで、こちら側にはバラエティに富んだメンバーが集結しています。
このプロとアマチュアのミックス感、あるいは真剣さとゆるさが程よく混じり合った映像は、リュック・フェラーリを知らない人から往時の音楽事情に精通した方まで、また映画好きから音楽好きまで、色々な方がそれぞれに楽しめる内容だと思います。
上映の途中に「この映画はこの後『完全無編集』でお送りします」という注意が入りますが、その後監督のジェラール・パトリスがどういった仕掛けを用意しているのかは、見た人だけのお楽しみとなっています。
映画は全体を通して生き生きとした感情にあふれており、カメラに指示をとばすパトリス監督やカメラ目線で笑ってしまう演奏者、真剣な表情で指揮をする若き(改めて男前だなぁと思います)リュック・フェラーリなど、わずか15分の中に見応えのあるショットがいっぱい詰め込まれています。
日本での上映は残念ながら現在のところまだちょっと未定ですが、世界でもまだ数回しか上映されていないこの「スポンタネ4」を紹介できる機会がくればと思います。
【関連過去記事】
souffle continu(Paris)でのインストアライブと上映イベント - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)