全国2万5千人超のリュック・フェラーリファンのみなさま、こんにちは。
プレスク・リヤン協会(Association Presque Rien)日本支局開設準備室では今週、プレスク・リヤン賞2013の審査員を務められた椎名亮輔氏による講評「審査を終えて~プレスク・リヤン賞2013講評~」を4回に分けて掲載しており、今日はその3回目をお送りします。
フランス語版ポスター
今日はついに、プレスク・リヤン賞2013(1位)および2位3位の作品が選出されていきます!審査員団の意見は果たして満場一致となるのか?そして彼らは一体どのような点を重視し、賞を選出するにいたったのか?読まれた方はこの後ですぐさま受賞作を聴いてみたくなる、そんな気持ちにさえなってしまわれることでしょう。
素晴らしい「講評」であるのはもちろんのこと、審査員がペンを走らせて星をつけていく、そんな現場の息づかいまでもがそのまま伝わってくるような渾身のレポートにもなっています。
原稿をいただいた際には一挙全文掲載、ということも考えましたが、このドキドキ感をじっくりと味わっていただくべく思い切って4回に分割し、毎日連載の形でお届けすることにいたしました。ご了承ください。
「実は今日初めてこのブログを見つけた」という方は、こちらのリンクから連載一回目をどうぞ
「プレスク・リヤン賞2013(Prix Presque Rien2013)講評」【1/4】 - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)
(全文を一息に読みたい!という方に向けては、今月末に全文を一挙掲載する予定ですのでそちらもご覧ください)
なおプレスク・リヤン賞2013の結果、および審査員団(7名)についてはこちらの記事
速報!Prix Presque Rien 2013 (プレスク・リヤン賞2013) - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)
また、受賞者についてのプロフィールはこちら
「プレスク・リヤン賞2013」入賞者の紹介です! - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)
をそれぞれご覧ください。
「審査を終えて~プレスク・リヤン賞2013講評~」(3)
椎名亮輔
さて1位に輝いたブライアン・ジェイコブスの《Le La en Le》(翻訳は不可能だろう、「ラ」というのが音名の「ラ」と女性冠詞の「ラ」との掛詞だというのはわかるが。強引に訳せば「彼の中の彼女=ラ」?)だが、彼は履歴を見ると2007年にすでにLa Muse en Circuit(回路の詩神協会)主催のConcours Luc Ferrari(リュック・フェラーリ賞)を受賞している。アメリカ、ニューヨーク生まれで今はオーストラリア在住の作家である。年齢はわからないが、おそらく30代ではないだろうか。あぶなげのない、しっかりした構成の作品で、すべての審査員から高評価を得ての1位受賞である。しかし私の個人的感想から言えば、あまりに「うまく」出来ているために、いわば「声の粒」とでも言ったものが感じられず、その点が物足りなく感じられたのも否定できない。
次の2位、ジェイムズ・アンディーンの《Déchirure》(裂け目、裂けること)だが、作者は41歳のフィンランド人。彼の作品は実は、賛否両論が分かれたところであった。私などにはある種のドラマが感じられ、とても面白く聴けたのだが、ある審査員にとっては、余りに多くのものが詰め込まれ、その上、さまざまなエフェクトが余りに大げさで辟易するとまで言われたのである。確かに、作品の半ばで、虫の羽音が飛び回り、それが徐々に複雑になって行って、いわばクレシェンドした果てに、機関車の音に繋がっているところなどは、聴く者によっては「あざとい」というようにも感じられるかも知れない。この例のようにこの作品では、非常に大きく音像が動き回り、ダイナミック(あらゆる意味で)がとても多様である。しかし、その大胆さを私個人的には好もしいものとして感じたのだった。ちなみにタイトルはもちろんリュックの《引き裂かれた交響曲》への目配せと同時に、彼の作品の最後でもそのリュック音源「引き裂き音」が重要な役割を果たしていることを表わしている。
さて第3位はアヤコ・サトウの《small stroll》(何と訳すのだろう、小さな散歩?)。これは実は私の個人的評価はそれほど高くなかった作品で、というのも、4分という小さい空間の中に(これは16作品の中で最小である)余りにたくさんのものが余り説得力もなく詰め込まれていると感じられたからである。しかし個々のアイディアには面白いものもあって、たとえばフェラーリの声と「含み声」(?)との絡みとか、リズム的背景のクレッシェンドとか、……しかし、それらが少しも発展されることなく、次々と移り変わってしまう。もう少し、言わば余裕を持ってそれぞれのアイディアをじっくり聴かせるというようにすると、作品に幅ができるように思われた。こうした評価もある程度、審査員全員の中で言われたものでもあったが、また同時にこの圧縮された諸要素、ある種の「混沌」が実は意図されたものであったのではないか、という意見も聞かれた。つまりはここでも審査員の意見は分かれたのである。そして平均的に過不足ない評価が与えられ、3位入賞と相成ったのであった。今後の展開に期待したいという言葉も聞かれた。(最終回へ続く)
緊張感に満たされた審査会場で、『プレスク・リヤン賞2013』がついに決定しました!満場一致に近い評議内容のようですが、現場ではその「安定感」がどう評価されたのか。これは2位3位に関する審査状況と対比して読めばとっても面白いですね。佐藤亜矢子さんの作品は審査員団の想像力をかきたてる、いやむしろ審査員団の中ですら互いの胸の内を「探り合」わさせてしまうような、そんな作品なのかも知れません。また、2位作品の評価では大いに星が割れた、とも思えます。このような大混戦の中で、安定感にすぐれた《Le La en Le》が頭ひとつ抜け出た……ということでしょうか?これらの作品を「並べて私も聴いてみたい!」と思った方もたくさんおられることでしょう。そう思われた方は下記リンクからぜひポッドキャストでお楽しみください。今日紹介された受賞3作品は仏のラジオ番組で既に放送されています。
Luc Ferrari, Bernard Parmegiani ... de l'émission Electrain de nuit - Radio France Musique
さて、明日は全応募者必見!いよいよ他の最終候補作についての状況が明かされます!
4日間に渡っての連載も明日はとうとう最終回、ぜひお楽しみに!
【関連過去記事】
「プレスク・リヤン賞2013(Prix Presque Rien2013)講評」【1/4】 - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)
「プレスク・リヤン賞2013(Prix Presque Rien2013)講評」【2/4】 - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)
パリINA/GRMでのPrix Presque Rien 2013 (プレスク・リヤン賞2013)コンサートのお知らせ - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)
速報!Prix Presque Rien 2013 (プレスク・リヤン賞2013) - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)
プレスク・リヤン賞2013に参加いただいた方へ - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)
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