私がアクースモニウムと呼ばれる立体音響システムを初めて体験したのは、2000年のGRMだったと思います。それ以来、国内外で様々なアクースモニウムで作品を聴き、または演奏してきました。
「何、それ?」って聞かれると、私は「うーん。飛び出す絵本、、、というか、絵本の中、物語の中に入っちゃえる感じかなぁ。」と、答えます。たぶん経験した一番大きなアクースモニウムは、毎年夏にフランスで開催されているフェスティバルFUTURAのもの。体育館くらいの広さのところに、50台以上のスピーカーが配備されている。薄暗い前方の遠いところから、波のように音が静かに打ち寄せて来る。気が付くと自分の周りを音に囲まれたと思うと、ふと背後でささやき声が聞こえる。蝶々がすぐそばの花に止まってはふっと飛んで行くように、音が手に取れるほど近くに来たと思ったらふわっと広がってどこかへ行ってしまう。あたりを見回しても音は見に見えないけれど、目を閉じればすっかりその音世界の住人になってしまっている。そんな、感じ。
私がFUTURAでアクースモニウムの演奏を教わったジョナタン・プラジェ氏はいつも、私が演奏する前に、「ボン・ボヤージュ!(良い旅を!)」と声をかけて下さった。そう、作品はひとつの旅。私もいつもそう思っている。
ジーベックホールは、天井が高かったように記憶している。今回はその天井にもスピーカーが配備され、20台のスピーカーによるアクースモニウム。どんな物語が立ち上がるのか。一緒に旅に出掛けましょう。
(かつふじたまこ)