ラジオ・ドラマの体験として、どのようなものをお持ちだろうか。ある一定年齢より以上の人であれば、中学生のころに、夜に布団の中で家の人に気付かれないように、ラジオに耳をすませた経験がないだろうか。それは、子どもの時代からの脱皮、青少年になりたての何か生き生きとしたものを、背後にともなっていた。子どもの知ってはいけないこと、そしてそれを知っていることを大人に知られてはいけないこと、それを知ることができる快感。秘密のものを、周りの闇にまぎれ、そうっと垣間みる快感。基本的に、ラジオ・ドラマは、一人の人間が(密かに)聴く、個人的なものであり、またそれは夜間のもの、昼間の喧噪が静まり、戸外に人気がなくなり、遠くから犬の遠吠えが聞こえるような、外の漆黒の闇を帰宅を急ぐ人の足音が遠くから近付き、また遠ざかっていくような、そんな時間のものだ。(続く)(椎名亮輔)