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リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)

フランス現代音楽における重要な作曲家の一人である、リュック・フェラーリ(Luc Ferrari:1929~2005)に関する情報を主に日本語でお伝えします。プレスク・リヤン協会(Association Presque Rien)は彼の友人達によってパリで設立されました。現在もその精力的な活動の下で続々と彼の新しい作品や楽曲、映画、インスタレーションなどが上演されています。 なお、より詳しい情報は、associationpresquerien@gmail.comまでお問い合わせください

「リュック・フェラーリ銀盤解説大作戦」【第7回】特別編:ジャクリーヌ・コー、日本に現る!

ヴォルテール通り11番地、地下2階……。

 

ルスタロ少佐:う~む、トルミンが日本にいる間の留守を預かってはみたものの、普段やつに任せっきりのこの傍受室、どうも勝手がわからんな……(ガサゴソ、パカッ……)あ、あのやろう、こんなところにビールのストックを隠匿しおって!仕方ない、今日という今日はこの私が消費して……(トゥルルル……)ちっ、こんな時に無線か。はいはい今いきますよ、と……

トルミン伍長:応答せよ応答せよ!!こちらトルミン!いるんでしょ少佐!?ビールなんて出してる場合じゃないですよ!応答せよ!少佐ーーー!?

ルスタロ少佐:なんだ騒がしい。おまえ変なとこで勘がいいな、なぜビールのことを……まあいい、どうした?

トルミン伍長:いってきましたよたった今!ユーロスペース2での上映会&トークショー、「Man From Tomorrow」!!

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ルスタロ少佐:おお、遂にジャクリーヌ・コー監督をキャッチしたか!

トルミン伍長:ばっちりです!しかし大盛況でしたよ~上映前に会場で張りこんでたんですが、もうオープンから人、人、人の山!酸欠になるかと思いましたよ。まあそこは得意の匍匐前進で潜入したんですけどね。

ルスタロ少佐:それって、まさかチケット……まあいい、で、どうだった?

トルミン伍長:いやー感動しましたよお!デトロイト・テクノの重鎮ジェフ・ミルズの姿に迫る!という触れ込みだったんで、彼の活動を追ったようなドキュメンタリー的な作品かと思ってたんですけど、全然違いました!あれはなんというか、「映像で聴く音楽」ですね。非常に抽象化された、純度の高い作品でした。ジェフ・ミルズがテクノの魔術師なら、ジャクリーヌ女史は映像の魔術師。光の明滅とジェフの影だけであんなに凄い表現ができるなんて……、とその作家としての手腕に圧倒されました。リュック・フェラーリの“引き裂かれた交響曲”をソースにした映像作品「“引き裂かれた交響曲”の物語」での美しい揺らぎのような、視覚的な工夫は勿論健在でしたし、あの作品は詩的な装いが強かったけど、今回の作品では構造的な側面がより色濃く出た感じがしましたね。

ルスタロ少佐:ううむ、さすがダニエル・コーの夫人だけあってあなどれん人物だ。その創作エネルギーもまったく衰えておらんようだな。

トルミン伍長:どころか最近ますますパワーアップですよ!それはそれとして、個人的にはジェフの手に巻きつけられたオーディオケーブルと、そこでかかっているミュジック・コンクレートのような音にリュック・フェラーリとの繋がりを感じちゃいましたね。ちょうど「音楽それ自体が問題だったことは一度もなく、それを人間が観念的に捉えてしまうことが自然な創造性の妨げになるのだ」みたいなモノローグが入って。ほら、ちょうどトレーラーの冒頭でチェックできます。http://vimeo.com/86218993

ルスタロ少佐:おおお、たしかにコンクレートっぽいな。観念よりも自然を重視する姿勢も何だか似てるんじゃないか?よかろう、君の感想は帰ってからゆっくり聞くとして、上映後のトークについて報告してくれ。

トルミン伍長:アイアイサー。20分という短いトーク時間だったんですが、主にその制作意図についてのお話でしたね。ジャクリーヌいわく、この映画では映像と音楽の関係に留意したと。ナラティブではなくシンボリックな作品、宇宙や時間・未来や光などをイメージすることができる作品にしたかったそうです。一方ジェフは最初この企画に乗り気ではなかったんですって。自分の活動やテクノ音楽についてルポするなんて今までもやられてきたことじゃないかと言ったらしいんです。しかしジャクリーヌのやりたいことはDJ姿を見せることではなく、ジェフの頭の中で何が起こっているかということで、そういったプランに共感したジェフは彼女と綿密に対話を重ねていったそうです。彼は音楽の中で表現しつづけてきた自分のアイデアを、彼女の映像によって翻訳するような試みができると考えた、違う視点を提案できるんじゃないかと思ったそうなんですね。

ルスタロ少佐:なるほど。ジェフは思想面・精神面で非常にストイックなものを持っているし、テクノという媒体でそれを表現しつづけてきたからな。しかしジャクリーヌのことだ、それを小難しく翻訳するのではなく、シンプルにストレートに映像化したのだろう。

トルミン伍長:その通りなんですよ。とてもアナログ的な手法を使っている。CGとか全然使ってなくて、極めて限定的で原初的な技術だけで作られています。曰く、「音楽を聴き、ムードを描こうとしたらそうなった」ということです。面白いことにジェフも同じように自身の楽曲制作では「2本の手でできないことはしない」んだそうです。つまりマシーンのキャパシティですることではなく、人間のキャパシティでできることが大事だと。制限を加える事でよりクリエイティブになれるんだそうです。

ルスタロ少佐:たしかにジェフの音楽にはエレクトロニクスの過度な介入はないな。今日びそんなことはテクと機材さえあれば誰でもできるし、そればかりを追求した昨今の風潮には私も飽き飽きしてたんよね。やっと人間の本質をついた深みのある作品が現れたんじゃないのかね。おお、そういえば二人は綿密に対話を重ねたという話だったが、具体的なエピソードはなかったのか?

トルミン伍長:はい、具体的にはこの映画全体に漂う孤独感についてですね。彼の横顔、後ろ姿、目のアップ、どれもどこか孤独な惑星のような不思議な印象があったんですけど、その表現も対話の影響らしいです。DJというのは孤独な仕事で、ツアーで国や都市を渡り歩くノマド的なライフスタイルだけでなく、お客さんとも物理的距離があるし、そういう特別な立場にいると別のレベルで人を捉えるようになってくると。お客さんのコミュニケーションとは別の感覚で情報を捉えることが孤独を纏っているように見えるだろうということでした。あとはこの映画のタイトルにもある”tomorrow”。明日、というよりも未来、というキーワードについて。アニメやFXにでてくるような未来っぽさではなくて、記憶力や反復の作用といった、あくまで人間の行い・自然の行いから起こる想像力によって未来を表したかったというようなことを言ってましたよ。

ルスタロ少佐:うーむ、壮大過ぎる…話は尽きんな。よし、続きは帰ったら聞こう。すぐに戻ってきてくれ!

トルミン伍長:えーーっ、もっとゆっくりさせてくださいよ~。せっかくのゴールデンウィークなのに…もう一つの上映場所のある京都にも行きたいし、桜のまだ見られる東北・北海道にも行きたいし、いちご狩りにも行きたいし…。

ルスタロ少佐:なーにをいっとる。ゴールデンウィークは終わりだ。言っただろう、今回はあくまで特例措置で銀盤傍受の業務から外れてもらったのだ。さっさと持ち場に戻るのだ!

トルミン伍長:はいはい。どうせ傍受室の勝手がわからなくて困ってるんでしょ?むむむ、ビールは見つけたものの栓抜きはどこじゃ…?とかそういうことでしょ。ラジャー、帰りますよ。

ルスタロ少佐:あくまで今ここで栓抜きの在処は教えてくれないわけね…。まあよい、無事に帰ってくるのを待ってるぞ!

トルミン伍長:イエッサー!

 

 

 

 

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新作CDDVD ”Symphonie Dechiree”(引き裂かれた交響曲)(前編) - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)