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リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)

フランス現代音楽における重要な作曲家の一人である、リュック・フェラーリ(Luc Ferrari:1929~2005)に関する情報を主に日本語でお伝えします。プレスク・リヤン協会(Association Presque Rien)は彼の友人達によってパリで設立されました。現在もその精力的な活動の下で続々と彼の新しい作品や楽曲、映画、インスタレーションなどが上演されています。 なお、より詳しい情報は、associationpresquerien@gmail.comまでお問い合わせください

「センチメンタル・テールズ」に寄せて(1) (特集:センチメンタル・テールズ)

 

全国2万5千人のリュック・フェラーリファンのみなさま、こんばんは。

 

先日仏shiiinからブリュンヒルドリュック・フェラーリによる4枚組CDボックス”Contes Sentimenteaux”(センチメンタル・テールズ)がついに発売されました。

 

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当ブログ「リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』」では、一時は「音源化は不可能」とさえ言われたこの傑作の出版を記念し、今秋「特集:センチメンタル・テールズ」として5回(予定)に渡ってこの作品をより深く、より詳しく紹介していきます。

CDを既にお持ちの方はもちろん、CDをまだ手に入れていらっしゃらない方や、ヘールシュピールに興味をお持ちの方にもぜひ読んでいただきたい内容です。

 

なお今回の特集記事は昨年神戸ジーベックホールで開催されたコンサート「ヘールシュピールの肖像」で自作「Unimaginary Landscape ~ヘールシュピールのための~」ならびにリュック・フェラーリ作品「Les Anecdotiques」を演奏された作曲家の渡辺愛さんに寄稿いただきます。

 

 

なお、このCD”Contes Sentimenteaux”(センチメンタル・テールズ)の概要については当ブログでお伝えしています。

ついにContes Sentimentaux(センチメンタル・テールズ)が発売されます!! - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)

 

 

~「センチメンタル・テールズ」に寄せて(1)~

 

 

センチメンタル・テールズとは、フランスの作曲家でヘールシュピール作家のリュック・フェラーリが、彼の作品の誕生に密接に関連している、日々、夜、季節、場所、人々についての、個人的な物語、エピソード、思い出に対して与えたタイトルである。(ヘルマン・ナーバー)

 

 

センチメンタル・テールズとはなにか?

そう、このアルバムは、音楽作品でありながら、音楽の枠外へはみだしている。

音楽作品に、物語が絡みついている、とでも言おうか。

音楽作品を収録するのみならず、その作品が生まれた経緯、よしなしごと、思いつきなどを語った「ことば」、それらの録音を作品に絡みつけて、まったく新しい構成の作品を作ってしまったのである。

初めて聴いた人は戸惑うかもしれない。これは、音楽なの?

ラジオのトークセッション?ドキュメンタリー?オーディオドラマ?朗読劇?

……まあ、まずは深呼吸して、とにかくそこにある「音」に身を任せて欲しい。それが音楽であるにしろ、語りであるにしろ。

というわけで、これから数回にわけて、この不思議なアルバム「センチメンタル・テールズ」について、レーベルサイトshiiin 8 - brunhild & luc ferrari : contes sentimentauxの情報を交えながら詳しく紹介する。

若草色のボックスに収められたCDは4枚にわたっており、単体の曲としてもお馴染みの作品が並んでいる。

 

CD1

01 春景色のための直感的小交響曲

02 アベス広場

03 西風の見たもの

 

CD2

04 森の歌

05 村への登攀(しっぽを掴まれた音)

 

CD3

06 マチユーの眼&小品集(ピアノとテープのための36の一続き)

07 異型接合体パート1(ここには見るものは何もない)

08 異型接合体パート2(ここには見るものは何もない)

 

CD4

09 自伝作家の日記

10 ミュージック・プロムナード

11 細胞75

 

これらにどんな”物語”が重ね合わされているのだろう?

 

解説者の筆頭はアンリ・フーレス。

音楽学者で音楽家、リヨンのコンセルヴァトワールのディレクターを務めた経験もある。リュック・フェラーリとの関係は、1975年から77年までINA-GRMでの研鑽、「回路の詩神」での仕事、大型番組「フランス・キュルチュール」他に於いてのラジオ・アートへの功績など色濃い。

彼の解説を引用する。

 

音楽分析は多くの者にとって学校の宿題あるいは専門家の仕事にとどまっている。しかし、音楽を分析するやり方は無限にあって、作曲家が普通はしゃべらないようなことを自由にしゃべるようなときには、人はその作品について多くを知ることができる、なぜならすべてが意味あるものだからだ。その言葉は深く、無邪気で、ときには感傷的だ。言葉の意味とたわむれ、ときに正確、ときに夢見るようで、でもどんな分析よりも「言い得ぬもの」をわからせてくれる。この「言い得ぬもの」こそ音楽の創造者がその創造物に対して持っている内的なものなのだ。これこそ、どんな専門家でも言い得ないものだ。なぜなら、彼らは知らないのだから……。そしてこれこそセンチメンタル・テールズの目指すものだ。作曲家は、この音楽がどのように生まれたか、どんな逸話から、どんな秘密から、どんな隠喩からそれが生まれたか、それを生き生きとさせているのは何か、可笑しいものか真面目なものか、を語る。

たぶん、こんなやり方はめずらしいだろう。たぶん、こんな言葉たちは「精神=機知のピンセット」でつままなくてはならないだろう。これらの打ち明け話は音楽よりも遠くに行ってしまう。凝り過ぎと見えるかも知れない。しかし、あらゆる作品は結局のところ、自伝の隠れた表現なのではないか?

ということは、これらの作品の痕跡を追うことで、このシリーズのプロデューサーは伝記作家になったのだとも言えるだろう(アンリ・フーレス)

 

この指摘には、音楽を説明すること、その音楽が何であるかを知ること、に対する鋭い問いが隠されている。

我々は音楽を聴く時、しばしばその音楽の背景や周辺情報を言葉によって得る。あるときは作曲者自身によるライナーノート、あるときは学者の解説、インタビュー、歴史的資料......。しかしそれらの情報価値は、音楽そのものと比較すれば意外と乏しい。それらが音楽を言葉に変換したメタデータである限り、音楽そのものに届いたことにはならないからだ。音楽と言葉のいたちごっこはこれからも続くだろう。しかし、そんな永遠の謎に対する一解答を、リュック・フェラーリおよびブリュンヒルドフェラーリは、あろうことか一連の「音楽作品」として包み込んでしまったのである。

 

制作中の旅先でのちょっとした出会い、そのとき閃いたふとした思いつき、、、そんなライナーノートにあらたまって書かないような瑣末な思い出を、懐かしそうにリラックスしながら話す。すると音楽もまたその頃のことを思い出し、新たな発見をする。そんな時間と場所を超えた、生きた相互作用が、実践的な音楽の探求となって聴き手の体験をも塗り替えていく。ときには語る身振り、その口元などを想像し、語られる言葉もまた音響体験なのだなあ、などと気付きながら。

 音楽は、書かれた時点、録音編集が完了した時点で最終形になるわけではない。体験を更新し、再生成することで、いきいきと展開しつづけるのだという2人のフェラーリからの希望とユーモアにあふれた宣言が、この「センチメンタル・テールズ」なのである。

 

センチメンタル・テールズを構想中にわかったことがある(でも恐らく前から気付いていたのだろうが)、それは、しばしば、ある状況、人生のちょっとしたこと、旅行、何気ない仕草、などが音楽作品を作るきっかけとなっているということだ。

で、今は、それらの冒険(アヴァンチュール)を語りたいというわけだ、でもどうして突然、これが私の仕事の中で重要なものに思えるようになったかは、はっきりと説明できないのだけれども(リュック・フェラーリ

 

皆さんも、ふたりの旅の物語を更に続けていく一員となって、プレイ・ボタンを押してみてはいかがだろうか。

(続)

 

 

(次回はCD1の紹介を予定しています。ブックレット内の写真もご覧に入れますので、ご期待ください)

 

 

 

注:文中のヘルマン・ナーバー、アンリ・フーレスそしてリュック・フェラーリの言葉はshiiinサイトより全文引用。翻訳は椎名亮輔。

 

 

 

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