リュック・フェラーリ銀盤解説大作戦【第三回】
トルミン:はぁ……フー……
ルスタロ少佐:ん?どうしたんだねトルミン。ため息なんかついて。そんなことしてると幸せが逃げちゃうぞ~
ト:あっ!少佐!もー!いきなり入ってこないでくださいよ!!ため息ついてたわけじゃありませんよ。ろ・く・お・ん!録音してたんです。
少:おお、遠方の部隊に君の吐息で暗号でも送るってのかね!?感心、感心。
ト:ま、まあ、そんなとこです。(ほんとはフェラーリの真似して音楽作ってみようと思っただけだけど、黙っておこう…)
少:相変わらず返しがつまらんな、君は……それで、今日は?例の傍受の報告はないのかね?まさか仕事もせずサボって……
ト:い、いいえ!ちゃんとやってますよ!ホラこれです!これこれ!
少:おっ。こりゃ珍しいな。君には渡していなかった3インチCDじゃないか。普通のCDのサイズより小さいから、パソコンで再生するときには注意しなけりゃいけない。まあ、そもそもスライド式のドライブにこれは挿入できない仕様になっているから...
ト:もー少佐。この作戦に私を選んでおいて、まだうんちく言ってるんですか?私はそんなオマヌケなことしませんよ。ちゃんとCDプレイヤーで再生しました。ね?ね?ほらこのジャケットもかわいいでしょ?
少:おー、さすがオシャレレーベル・METAMKINE。映画のフィルム風のデザインが渋いな。
ト:そう、このシリーズ、「Cinéma pour l'oreille」っていって「耳のための映画」って意味なんですよ。フランスっぽいですよね~。
少:「耳のための映画」というのはまさに、フランスの録音芸術のエスプリを伝えるフレーズだな。ミュジック・コンクレートの音楽家にとって「CDやテープに記録する」という行為は、映画監督が作品をフィルムに収めるのと同じことなんだ。時間を選び、動きをつけて、時には混ぜあわせ、変容させる…。記録の技術が成せる技だ。ところで曲の内容はどうだったんだ?
ト:あ、失礼。まだタイトルを言ってませんでしたね。今日とりあげている曲「Unheimlich Schön」、「不気味に美しい」です。この「Unheimlich Schön」ってフレーズを、15分の曲中で女性がつぶやき続けるんですけどね、自分、数えたんですよ!何回「Unheimlich Schön」って言ってるか!
少:なんだかいかにも週刊誌のバイト君がやらされそうな仕事だな……。で、何回言ってたのかね?
ト:……それがですねえ……100を越えたところで、なんかわかんなくなっちゃって……ムニャムニャ……
少:おまえは寝る前に羊を数えちゃった子どもか。
ト:違うんです!これもリュック・フェラーリの魔術なんですよ!だって、途中からエコーがかかったり、「Schön」だけし聴こえなくなったり、それが重なりあってリバーブがかかって、だんだんだんだん迷宮に引きずりこまれるかのように……こう……バタっ!……
少:え?おい、どうした!?おい!
ト:あら?え?冗談ですよ。せっかく少佐が「映画」だっていうから、「マイ・プライべート・アイダホ」っぽくやったのに。
少:き、き、貴様~!
ト:いや、でもでもこの曲、ほんとに不思議な魅力があって、本当に「不気味さ」と「美しさ」が同居してるんです。この繰り返される1つのフレーズと、息の音、その空間的広がりは、たしかに不気味といえば不気味なんですけど、同時にすごく落ち着くんですよね……。こう、ね(再生する)
少:え?……お、おぅ……うむ、確かにコンセプトがシンプルな曲だからな。意外と安心感がある……。そういえばこの曲は最近モダンダンスの曲にも使われたりしていたな。そうだ、去年の6月にモンペリエで行われた「モンペリエ・ダンス・フェスティバル」でマチルド・モニエによるリュック・フェラーリの音楽を使った新作の初演があったんだが、この作品の中でも「不気味に美しい」は使われているんだ。昨年から今年にかけて、彼女のダンス・カンパニーのその公演がヨーロッパを巡回したんだっけな。
ト:あのー、そのダンス作品なんですけど、なんと来る6月8日に再演があるんですよ!今度はフランスのヴァランシエンヌで!ねぇねぇ少佐、連れてってくださいよ~。
少:うむ、特別随行員の申請ならいつだって許可してあげよう。ただし極秘任務ゆえ、諸経費は自己負担だ。いいな。
ト:(く…やっぱりオゴリじゃないのか…)イエッサー…。
今日聴いたLPは...
Luc Ferrari – Unheimlich Schön
(レーベル:Metamkine – ) より
Unheimlich Schön
でした♪(収録曲はUnheimlich Schönのみ)
http://www.discogs.com/Luc-Ferrari-Unheimlich-Sch%C3%B6n/release/205823
1971年にバーデンバーデンのスタジオで作曲されたテープ作品を1993年にリリースしたもの。Metamkineの連絡先は以下の通り。現在のところ絶版とのことですが、どうしてもという方は在庫があることもあるようなので(未確認)一度問合せてみてください。
それでは次回をお楽しみに!
Metamkine
50, passage des Ateliers
38140 Rives
France
tel : 09 77 54 48 49
tel : 04 76 65 27 73
【参考過去記事】
「リュック・フェラーリ銀盤解説大作戦」【第2回】 - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)
リュック・フェラーリ銀盤解説大作戦(第一回) - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)