リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)

フランス現代音楽における重要な作曲家の一人である、リュック・フェラーリ(Luc Ferrari:1929~2005)に関する情報を主に日本語でお伝えします。プレスク・リヤン協会(Association Presque Rien)は彼の友人達によってパリで設立されました。現在もその精力的な活動の下で続々と彼の新しい作品や楽曲、映画、インスタレーションなどが上演されています。 なお、より詳しい情報は、associationpresquerien@gmail.comまでお問い合わせください

センチメンタルテールズ 〜in memory of Luc Ferrari〜

11月11日(日)に西麻布のSuperDeluxeで行われるイベント、『センチメンタルテールズ 〜in memory of Luc Ferrari〜 8chマルチスピーカーで聴くフェラーリ作品と関連映像作品の上映』のプログラムの詳細についてご説明します(以下、http://d.hatena.ne.jp/callithumpより抜粋して転載します)。

               * * *

2003年の再来日時の国内ツアーに同行させてもらい、その際に企画した東京でのコンサートの録音をDisc Callithumpの記念すべき1枚目としてリリース(『Les archives sauvées des eaux / Luc Ferrari avec Otomo Yoshihide』CPCD-001、2008年12月1日発売)もさせてもらったフランスの作曲家、リュック・フェラーリ。現代音楽史に大きくその名前を残す大御所にもかかわらず、とても気さくでお茶目な人柄で、滞在中は楽しく充実した時間をともに過ごさせてもらったが、再会と再恊働を約束した3回目の来日を果たせぬまま2005年にイタリアで客死した彼の思い出に寄せ、またフェラーリ夫人ブリュンヒルドの来日を受けて、フェラーリのメモリアル・コンサートを企画した。会場は前述のライヴCDで大友良英と共演した西麻布のSuperDeluxe。他にも東京滞在中にDJ Oliveとの再会もあったりで、フェラーリ夫妻もたいそうお気に入りの思い出の場所である。

今回のイベントは3つのプログラムで構成される。

第1部は、フェラーリに関連した映像作品の上映。フェラーリの親友でもあるジャクリーヌ・コー監督による2本の映画、『リュック・フェラーリと ほとんど何もない(Presque Rien avec Luc Ferrari)』(2003年)と、一昨年製作された新作『引き裂かれた交響曲の物語(Contes de Symphonie Déchirée)』を上映する。

『リュック・フェラーリと ほとんど何もない』は同名のフェラーリの自伝に基づき、彼の仕事(演奏風景やリハーサルなど)を交えてフェラーリ像を追ったドキュメンタリー的作品。今となっては亡きフェラーリの創作風景や人柄がうかがえる貴重な映像資料でもある。今回は初の日本語字幕付きでの上映なので、フランス語がまったくわからないという人でも大丈夫。

『引き裂かれた交響曲の物語』は、フェラーリが2004年から2008年にかけて作曲した作品《引き裂かれた交響曲》(2008年)を引用してのフィクション的映像化。監督の言葉を借りれば「非常に個人的なやり方で、リュックの持っていた遊びや官能性への好み、また同時に深刻さや重要問題への関心などを表現しようとした。そしてまた、私たちを取り囲んでいる戦争や暴力を前にして私たち全員が感じるであろう引き裂かれるような感情をも。この作品を聴く時に私の目の前に現れるこれらの映像は、この音楽の単なる解説ではないことを意図している。しかし、それが音楽をよりよく理解する助けになることを期待している」とのこと。数人の女性ダンサーをパフォーマーに迎え、美しく、かつ、ひと癖もふた癖もあるファンタジーに仕上がっている。こちらは日本語字幕付きではないが、イマジネーション豊かな映像は言葉がわからなくても十分に楽しめる。

第2部は、前述のライヴCDでの演奏で、フェラーリに指名を受けて初共演を果たした大友良英によるソロ演奏。フェラーリへのオマージュとして作曲した新作「救出することの出来なかったアーカイヴたちへ」の世界初演を行う。このタイトルはもちろん、大友とフェラーリの共演曲《archives sauvées des eaux》(水から救出されたアーカイヴ)から派生したもので、果たせなかった再共演に代わる、そして、その延長線上に位置する作品になると推測される。

第3部は、8chのマルチスピーカーシステムを用いてフェラーリ夫妻のヘールシュピール(ラジオドラマ)作品を聴く試み。少女の吐息まじりのドイツ語の呟きのみで構築された小品「Unheimlich Schön(不気味に美しい)」と、自身の不整脈の発作を発端に制作された大作「Les Arythmiques(不整脈=非リズム的なもの)」の2つのリュック・フェラーリ作品と、彼の死後に、彼の最良のパートナーであり共同制作者でもあったブリュンヒルド・フェラーリが、彼の遺した音源を再構成して作曲した作品「Quiet Impacience(じりじりした静寂)」の3曲を、ブリュンヒルドのオペレーションで上演する。3作とも元々はステレオ音源として制作された作品だが、フェラーリの最大の理解者、ブリュンヒルドのオペレーションによるマルチスピーカーシステムでの再生が、それぞれに異なった、新しい聴取体験を提供してくれるだろう。


〈タイムテーブル〉
16:30〜17:20 上映①『リュック・フェラーリと ほとんど何もない』
17:30〜18:25 上映②『引き裂かれた交響曲の物語』
19:00〜19:30 大友良英ソロ「救出することの出来なかったアーカイヴたちへ」
19:40〜21:00 8chマルチスピーカーで聴くフェラーリ作品
※演目や進行は都合により変更になる場合があります。あらかじめご了承下さい。


開場時と幕間には、ZERO GRAVITYの永田一直によるDJが披露される。今回はリュック・フェラーリを意識して、電子音響やミュージック・コンクレートを多用したプレイをというリクエストに応えてくれ、ライヴ演奏的でかなりダイナミックな展開もあるかもしれない。こちらも、乞うご期待!

このように、リュック・フェラーリ自身やそのパートナー、友人、そして彼を敬愛する次世代のアーティストたちによる雑多とも言える作品や解釈の提示により、観客一人一人の中に(リュック自身がまさにそうであったように)多様なフェラーリ像を投射することができればと、企画者としては願っている。


公演情報の詳細はこちら>>>http://www.callithump.info
ご予約はこちら>>>https://www.super-deluxe.com/room/351/


最後に、今回の企画を実現するにあたり、惜しみない協力や助言をいただいたブリュンヒルド・フェラーリ女史とジャクリーヌ・コー女史、多くの助力をいただいたセンチメンタルテールズ上演委員会のみなさんに、この場を借りて感謝を申し上げたい。どうもありがとうございました。

(キャロサンプ/野田茂則)