全国二万五千人超のリュック・フェラーリファンのみなさま、こんばんは。
今年で5回目となるプレスク・リヤン(prix Presque Rien)賞、みなさんはもうチェックされましたか?
フェラーリのサウンドアーカイブを使って自由に創作できるこのコンクールは、クリエイターはもちろん、新しい作品を見つけたいアート好きの貴方にもうってつけ。なにしろ、わたしたちはフェラーリの「新作」はもう聴けないけれど、その「音の遺伝子」を受け継いた新しい才能には出会うことができるのだから......。
そしてこのコンクール、電子音楽だけじゃないどころか曲ですらなくていい、「作品」ならばなんでもいいのが特徴。
その証拠に、2017年の第4回プレスク・リヤン賞ではなんと映像作品が特別賞に輝きました。
「プレスク・リヤン賞って結局ミュジック・コンクレート系の人ばかり獲ってません?」と先日訊いてきた筆者の知人に「とんでもない!全然ちがう作品ばかりよ」と誤解を解くべく書いた今回の記事、ご登場いただくのはベルリン在住の音楽家、白承昊(Haku Sungho)さんです。
白さんは東京都出身、東京芸術大学先端芸術表現学科を卒業後にいくつかのレジデンスを経て、2017年からはベルリンに拠点を移して活動中です。ギタリスト&ボーカリストとしてバンド活動の経験も踏まえつつ、音を軸に多様な芸術表現を探求されています。
お話を伺っていて感じたのは、一つ一つの思考が骨の髄までアーティスト!受賞作品「Nylon Line」は数々の偶然が重なってできたといいますが、決してそれがラッキーではなく深い洞察から生まれたもので、審査員からの高評価は必然だったと思わされました。
「ほとんどなにもない」のスピリットをギラギラに研ぎ澄ましたシンプルかつインパクトのあるこの作品はどうやってできたのでしょうか?ぜひご覧になってから本編をお楽しみください。それではどうぞ!
- 1. 釣り好きだった少年時代
- 2. 師匠・木幡和枝との出会い
- 3. フェラーリと「対話」する?
- 4. 現象をシンセサイズする
- 5. メディア以前の音楽
- 6. ベルリンでの生活
- 7. プレスク・リヤン賞の魅力とは?
1. 釣り好きだった少年時代
ーーーー現在ベルリンにお住まいですが、なぜベルリンへ留学を?
「僕は今ベルリン芸術大学のSound Studies and Sonic Artsという科にいます。なぜここに在籍しているかというと、音を中心としている人たちの中で勉強してみたかったから。それまでの学校では音楽を“外”からみてきたのですが、一度ダイレクトに音楽をみてみたいと思ったのです」
ーーーーたしかに白さんはもともと美術学部のご出身ですね。
「芸大の先端芸術創造科にいました。中学、高校、大学とバンド活動をしていて……って、今でも辞めたつもりはないんですが(笑)。エレクトリックギターの歪みは今でも僕の音楽のルーツです。」
ーーーー子供のころから音楽に囲まれた生活だったんですか?
「うちは親が本当に音楽を聴かなかったので、幼少期は休日にたまにクラシックかカーペンターズが流れる程度の音楽環境でした。中学時代はカラオケが盛り上がっていたので、みんなと一緒に遊ぶためにカセットウォークマンを買っていろんな音楽を聴き始めました。その流れでバンドも始めましたが、いろんな音楽といっても中学生の頃聴いていたのはJ-POPやロック、グランジなどの洋楽で、今とはまったく別人ですね(笑)兄や姉がいなかった影響もあって、誰も僕に音楽を教えてくれなかったんですね」
ーーーー他に好きだったことはありますか。
「釣りが好きでした。幼い頃、祖父が北海道にいて釣りが好きだったもので、よく連れていってもらいました。川でナマズや鯉を釣ったり、チカと呼ばれる北海道で釣れるワカサギに似た魚をてんぷらにして食べたり。今でも海が近くにあればやりたいんですけど」
ーーーー釣り!それは受賞作「Nylon Line」そのものではないですか!?後で詳しく伺います(笑) 芸大の先端を目指したのは何故だったのでしょう?
「進路を考えた時、バンドを続けるためにはどうしたらいいかと思いました。 そんな時、おじが『大学にいったら四年間遊べるよ』とそそのかしたんですね(笑)今から勉強も間に合わないし、僕のやりたいことってなんだろうと考えて、音楽の視点以外でも芸術をみてみたい、と思ったんです」
2. 師匠・木幡和枝との出会い
ーーーー先端はユニークな人たちがたくさん居る科ですが、同級生や先生からの影響も大きかったのではないでしょうか。特に先日惜しくも急逝された木幡和枝さんは、白さんの指導教官でしたね。
「木幡先生は僕の人生を一番大きく変えてくれた恩師です。いろんなことを教えてくれました、お酒の飲み方も(笑)
木幡先生のおかげで耳が開かれたといっても過言ではありません。というのも、故デレク・ベイリーのパートナーのカレン・ブルックマンがインカス・レコードを引き続き運営されているんですけど、そこで2009年にボランティアさせてもらってフェスティバルでいろんなミュージシャンとも会わせてもらったりしたそれらの縁は、すべて木幡先生のおかげです」
- 作者: スーザンソンタグ,デイヴィッドリーフ,Susan Sontag,David Rieff,木幡和枝
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2014/04/22
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↑アートプロデューサーの木幡和枝さんは、デレク・ベイリーやスーザン・ソンタグの本の翻訳でも知られる。今年の4月に惜しくも亡くなられた
「ダンサーの田中泯さんのフェスティバル(ダンス白州)にも行きました。そこで泯さんの踊りや灰野敬二さんの音楽を生で聴いたりしたことで、急に耳がいろんなものに傾くようになったというか。それで自分でもクセナキスとかシュトックハウゼンとか尹伊桑とか武満徹とかを聴くようになって、もちろんそのなかにリュック・フェラーリもいたわけです。
近年も年に2,3回、日本に帰ったときにはお会いしていたので、先生の訃報を聞いた今も信じられない気持ちです」
「同級生からもすごい刺激をもらいましたよ。校舎が取手だったんで、みんな近隣の柏とかにアパートがあったんですけど、そこで集まってこの作品が良いとか悪いとか朝まで討論したり。潘逸舟なんかは予備校時代から一緒で、入学してからも一緒に木幡研究室だったし、今でも帰国したら会いますね」
ーーーーインカス・レコードのボランティアはイギリスで?
「そうです。先端にいた時期は2006年から2011年でしたが、その間に一年休学して滞在しました。英語も勉強したかったし、ちょっと日本を離れてみたいなというのが常々ありまして。
僕は外国人としても日本を見てるし、日本人と同じようにも日本を見ているわけですけど、もっと第三者の、完全な外側の存在として日本、朝鮮、そして韓国をみてみたいという考えからです」
ーーーー大学院の途中で韓国へ移られます。
「最初は学生として韓国の大学院に入ったんですけど、途中から伴奏講師というのかな、ダンスの即興のクラスでギターを弾くようになりました。ベルリンに移る2017年までは、5年間韓国に滞在しています。アーティスト・イン・レジデンスも幾つか経験しました」
ーーーー2017年…ちょうどプレスク・リヤン賞2017が開催された年ですね。
「はい、2017年の夏にベルリンに引っ越したんですけど、その直前に制作したのが『Nylon Line』ですから、僕の釜山での最後の作品ということになります」
3. フェラーリと「対話」する?
ーーーーあの印象的な海辺は釜山なのですね。絶好のロケーションですが、ロケハンしたんですか?
「ロケハンというほど大層なものじゃないです。最初は釣りをしに知り合いのお兄さんに連れていってもらったんです。2015年のことでした。本当に純粋に、釣り道具だけ持って。それが記憶の中で鮮明に残っていたんです」
「この一文字防波堤とよばれる釣り場は文字通りまっすぐに伸びた防波堤で、陸から10分ほど船に乗って行きます。実際に人がよく釣りをしているのは、撮影場所の反対側の柵のあるところなんですが、僕が撮影した方はむき出しで、後ろの方(カメラを設置した場所)が階段みたいになってて登れるんですけど、高いところからちょうどいい具合に海を見下ろせるんです。まるで映画を見てるみたいなロケーションだなと思って、これをカメラで撮ったらどんなだろうと思いました。でもその時は具体的に作品を作ろうとは思っていなかったです。釣りをしただけ。フェラーリのサウンドアーカイブを聴いて、その場所のことを思い出したのは2017年のことです」
ーーーー「プレスク・リヤン賞2017」ですね。賞の存在はどのように知ったのですか?
「荏開津広さんのFacebookだったと思います。彼は芸大先端時代の僕の英語の先生で。彼が本『センチメンタル・テールズ』が刊行された際に、京都で行われた本の発売イベント『大いなるリミックス ~センチメンタル・テールズ ~ 』で司会するという情報をみて、プレスク・リヤン協会というものがあることを初めて知ったんだと思います。記憶が定かでないのですが、たしかそれがきっかけでした」
ーーーーフェラーリのサウンド・アーカイブを試聴して、どう思いましたか?
「最初の印象は『音質がすごいいいな』ということ。彼が録音機を持っていた時代から考えると、しっかりとピントがあっているというか、テープ特有の中域が太い感じ。小型飛行機の気持ち良くドライブかかっている音とか、やっぱりさすがだなあって。あとアーカイブス全体で言うと、幅広いオブジェクトが用意されていて、一つの物語に縛られないようにという配慮を感じました」
「きちんとは覚えていないですが、使う前に一度メモにどういう音が入っているか全部書いた記憶があります。僕にとっては(用意されているアーカイブスが)多いなと感じたんですね。だから自分なりに制約をつけようと考えたのが、水の音を中心に使おうという点です。川でのボートの風景音とか、鴨が飛び立つ音とか……たしか水の音だけで3つくらい使いました」
ーーーー編集で工夫したことは?
「『そのまま使う』ということです。伸び縮みをさせたり、長さを切ったりしないように制約をつけました。 録音した『意思』みたいなものがそのサウンドの中にはあると思ったからです」
「バンドで経験したことですが、僕がギターでもう一人ドラムがいるというような編成で演奏すると、たった二人でもそれぞれ別の解釈だったり方法論があります。そういう関係性が想定外のハプニングを起こしたりして、それがすごく面白かったりするんですね。それは一人が想定するものでは得られないんです」
「フェラーリのサウンド・アーカイブは自分の外側からやって来たものです。外側と対峙するには対話性みたいなものが必要だと思っているんですけど、フェラーリの意思として残っているものは録音しかないんだけど、彼と対等に対話するには情報をいじらずにやることが必要だと思いました。ここからここまで、と決めたのはブリュンヒルドさんかもしれませんけど、とにかく何か制約を設けようと思ったわけです」
ーーーーいわば(フェラーリと)デュオセッションをやっている形の作曲にしたいと?
「まあ録音されているものなので、もう少し緻密に練ることができる点ではセッションとはちょっと違うと思いますけど、そのような関係性を大事にしたいと思っていました」
4. 現象をシンセサイズする
ーーーー海での撮影の話に戻りましょう。水平線に向かって釣りをする人の後ろ姿を捉えた究極にシンプルで潔いワンカットですが、これはコンセプト通り?
「実はこのカメラ以外にもう一台GO PRO(ウェアラブル・カメラ)があったんです。撮影を手伝ってくれた弟が持っていたんですが、なんと彼がメモリーカードを忘れて(笑)撮れなくなったので、潔くワンカットで撮りました。画像的によかったら使おうくらいに思っていたのですが、結果的にはなくて良かったです」
ーーーー撮影はどのくらいやったんですか?
「最初は10分くらいを想定していました。仕掛けを投げ入れるところから始まって。ただ途中で水平線に船が出てきまして、そこから始めたほうが音との兼ね合い的にも面白いと思って、映像の尺は6分強になりました。全体としては5テイクくらい録った中から選んでいます」
ーーーーあの船、すごい名演でしたけど(笑)たまたまですか?
「あれはすごいたまたまで(笑)全然意識してないんです」
ーーーーおお、水平線と船とのフレーミングも絶妙でしたけど、あれは偶然だったのですね!
「まぐれですね。フレーミングは柵のないところから撮ったのが功を奏しました」
ーーーー撮影中に海中の音も録音したんですよね。
「釣竿にコンタクトマイクをテープでぐるぐるまきにして振動を逃がさないようにしました。けっこう録れるんですよね」
ーーーー魚のほうは獲れましたか?(笑)
「いいえ……もちろん振りではなくちゃんと釣りはしたんですが、マイクをつけている関係で針一本と、おもりだけのシンプルな投げ釣りだったんですよね。普段はそこではアジやサバなどの回遊魚を狙ってサビキ釣りといって餌針がいくつも付いた仕掛けで釣るのですが、そのときはおもりをつけて水底に当たる音も録りたかったから……それでも映像の最後の方に魚の小さいアタリがあったんですよ(笑)」
ーーーーではそのようにしてピックアップした音、サウンド・アーカイブとの絡ませかたはどんなことを注意したのでしょうか?
「『現象をシンセサイズする』という観点です。ある現象と、それとはまったく別の現象を交わらせる。それってありえない世界だけど、音のなかではただのナラティブな要素ではない実際の聴覚経験として表現できるんじゃないかと。現実の中でもこういったことはあって、海水と淡水の交わるところ、川が海につながっていくような現象になぞらえられるかもしれません。音のなかで交わる、ありえないような生態系がそこにあるっていうイメージです」
「リュック・フェラーリってお茶目というか、ユーモアがある。ときに不謹慎なことをやりながら、すごくまじめ。そんなところに共感しつつ、音を組んでいきました」
ーーーー「ありえない世界をつくる」というのはまさにフェラーリ作品をはじめとする録音の音楽が得意とするところですよね。映画とかだと、ショットのつなぎ方とかフレーミングとかで「映画の中だからこそ成立するありえなさ」を演出することができて、そういった分析は数多なされていますけど、音響作品、特にフィールドレコーディングを用いた作品についてのナラティブ性の検討はあまりされていないのではないかと、常々思っています。
「どうしてもこう、ピエール・シェフェールだとかマリー・シェーファーのことは語り継がれているけれど、別の位置にいる人のことはまだまだ知られていないですね」
ーーーーシェフェールやシェーファーはわりと御本人がガッツリ本を書いていて、啓蒙といいますか、ディストリビューションしているからっていうのもあるでしょうね。
リュック・フェラーリとほとんど何もない―インタヴュー&リュック・フェラーリのテクストと想像上の自伝
- 作者: ジャクリーヌコー,Jacqueline Caux,椎名亮輔
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↑ジャクリーヌ・コーの著書からはフェラーリとシェフェール、そして意外にもシェーファーとの関わりについても確認することができる
5. メディア以前の音楽
ーーーータイトルは釣り糸のことですか?
「そうですね、ナイロン・ライン」
ーーーーそれは釣り糸を振動を伝えてくれるメディアとして捉えているということも含まれているわけですか?
「うーん……もちろん繋げてくれるものではありますが……ただ僕、最近メディアという言葉をなるべく使わないようにしたいなと思っています。媒体って、括ることでいろんなもののボーダーが鈍ることがたくさんあると思うんですよ。もちろんそれがメディアという言葉の持つ意味のうちの一つだとは思うんですけど。便利な名詞化というか、メディアと称されたものの性質が見えづらくなると感じます」
「例えば二つの異なる領域の境界線上に何かそれらを繋ぐものがあったとして、その何かを、それ『そのもの』として捉えることと、『メディア』と称して捉えることは結構違うことだと思うんです。もしナイロン・ラインというラインそのものの意思があったとしたら、それはおそらく媒体ではなく、(役割としてはもちろん僕に何かしらの情報を繋げているということではありますが)もっと別のインディペンデントな何かという意識を持った方がより多くの発見があるのではないかと感じています」
「音楽をメディアといったりするじゃないですか?では音楽は何と何をつないでいるものなのか?という問いって本当は意識されなきゃいけないのに、あまり意識されていません。自分の外側の存在や現象がナイロン・ラインに与える影響だったり、情報と、僕の身体がどう関わっているのかを考えながら、こういった問いについて作品の中で模索したつもりです」
ーーーー賞を取れると思っていましたか?
「僕は、とても好きな作品なんですが、人からどう評価されるのかはわかりませんでした。 そもそも評価されるようなことってあんまりなかったから、とても嬉しかったですね」
ーーーー制作環境について教えてください。
「音の編集は基本はLogicを使っていて、そろそろ変えようかとも思いますが、でもあまりDAWの環境を変えることで劇的な変化があるとは考えていません。買うんだったらアナログのものを買って所持するタイプですね。テープレコーダーやミキサーなどビンテージのものはアップデートなどの必要もなく(たまに修理は必要ですが)、長く使えるので好きです。昔のものは良く作られていますね」
ーーーーでは映像はFinal Cut Proなどで?
「いえ、iMovieです(笑)お金もったいないし、作品の質が落ちるわけではないので、あれで十分。最近の作品でペインターのJazoo Yangとのコラボレーションワークがあるんですが、その動画も全部iMovieで編集しています」
Canvas Instrument Ⅱ- Haku Sungho & Jazoo Yang
ーーーー「Canvas Instrument」シリーズですね。
「この作品では、ドローイングするときに生まれた振動をマイクで拾ってサンプリングしているのですが、これも『Nylon Line』同様にコンタクトマイクを使用しています。ある種のライブペインティングですね。 でも音と絵の人がそれぞれ独立しているライブペインティングのスタイルをよくみますが、それだとライブペインティングの意味があまり感じられないしつまらない。もちろんそれぞれが面白ければ面白いと思うんですけど、僕はある種の制約をつけてみて、ペインターが何かを始めなければ音がないという状態から始めてみたいと思ったわけです」
ーーーーJazooYang氏はインスタレーション作品も手がけるとのことで、リュック・フェラーリの音を聴いたらどう反応されるのか気になるところです(笑)
「ちょうど『今年プレスク・リヤン賞出してみたら』って話をしてたんですよ(笑) 現代美術の人があの音で表現したら面白そうですよね」
ーーーーぜひおすすめしてください(笑)
6. ベルリンでの生活
ーーーーライブペインティングはどんな場所でやるのですか?
「最近はクラブミュージックの関係の人が面白がってくれていますね。僕としてはどこでもできるように準備はしたいと思っているんですけど、マンネリ化してライブの意味がなくなっちゃわないようにはしたいです」
ーーーーベルリンではバンド活動も?
「今は新しいライブの形を模索しています。バンドではなく、ソロでやる時間も必要だと思って方法を探っているのですが、シンガーソングライターによく見られるアコースティックギターでの弾き語りのようなアプローチは自分の方向とは違うので、少し考えながら。アルバムのオファーもきているので、現在はレコーディングをしています」
ーーーーベルリン芸術大学での様子も教えてください。
「Sound Studies and Sonic Artsは他の科に比べて一年目はハードだと思います。僕は今学期、月曜から土曜までみっちりありますね。今はフォーカス・フェーズといって、所謂理論や実習の授業を受けて、勉強をしていく段階。サウンドデザインの話やオシレーターを作るワークショップもあります。授業は英語なんですが、哲学的な話も扱うので、理解するのは楽ではないですね」
ーーーークラスを受けているのはどんな人たちですか?
「けっこうバラバラで、建築専攻だった人や哲学専攻もいるし、セオリー系もいればミュージシャンもいます。次学期からプロジェクト・フェーズという段階に入りますが、制作を行っている証明が必要なので、人によっては自分の国に帰ったり、レジデンスをしたりするような状況です」
ーーーー日常生活のほうは?
「越してきて丸2年になろうとしていますので、だいぶ慣れました。ドイツ語はまあ、すごく簡単な日常会話くらいだけですが」
ーーーーベルリンの好きなところはどこですか。
「街に商業広告がほとんどなく、芸術関係のポスターしか見かけません。それと、とても多くの植物に囲まれているので空気が綺麗です。首都とは思えないほど、のどかですね。
あと、基本的に夏以外は太陽が短い時間しか出ないので、たまに日差しが現れるとみんな公園に行って寝そべったりしています。そういうところが好きですね」
ーーーー今後の展望は。
「作り続けること。それをやめない。同時代の人たちと繋がりながら、音楽と向き合う状況を自分で作ること・開拓して広げていくことが大切だと思っています」
7. プレスク・リヤン賞の魅力とは?
ーーーー最後に、このコンクールに参加して賞までとった立場として伺いたいのですが(笑)、ずばり、プレスク・リヤン賞の魅力とは?
「まず、リュック・フェラーリの音源をもらえるってだけでもすごい賞です! それから、2018年の受賞コンサートで入賞者たちの作品を聴いて感じたことでもあるのですが、『“この音にどう反応したのか?”というのがちゃんと見えるものである』という点が大切なのかなと思いました」
「それこそ『作曲がうまい人』なんてたくさんいると思います。僕の好きなカフェのマスターが『美味しいコーヒーをいれるのは簡単で、一番高いロースターやエスプレッソマシーンを買えばいいが、お金がなければ技術を磨くか工夫するしかない』と言っていたんですけど(彼はアイスコーヒーのグラスの厚さや温度、氷の大きさまでこだわっていましたし、何より小さな店内でフリージャズや、現代音楽が流れる空間が好きでした)、たぶん電子音楽などの作曲も同じように言えるでしょうけど、ある程度のセンスがあって、かつ良い機材が揃えばそこそこ優秀なものは割と簡単に作れてしまうのかもしれないですよね」
「でもプレスク・リヤン賞はそういうめくらましがきかない。逆にいえば形にとらわれずにできる。おこがましいですが、僕が賞とったことをきっかけに別のもの、作曲以外のものも沢山でてくると面白いのかなって思います。美術の作品にしたって良いと思うし、ダンスでもいいし。他のコンクールと同じになったら、つまらないですからね」
ーーーー今日はありがとうございました。
(インタビュー / 文:渡辺 愛 (作曲家)、インタビュー日時:2019年5月24日 Skypeにて通信)
*編集後記*
「プレスク・リヤン賞は、表現の幅が広がる可能性を受け入れてくれるのが魅力」ーーそう語ってくれた白さん。フェラーリの音に対峙できる絶好のチャンス、プレスク・リヤン賞2019は現在絶賛開催中です。当ブログの詳解記事を参考の上、ドシドシ応募してください!
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