全国二万五千人超のリュック・フェラーリファンのみなさま、こんばんは。
7月第三月曜は日本の祝日「海の日」。(2020年だけは7月23日)
調べてみると世界海洋デー(6月8日)、水路記念日(9月12日)と、水にまつわる記念日はいろいろあるようですが、「海の日を祝日にしているのは日本だけ」だそうです。
そこで「海の日」に関連して少しだけ、「リュック・フェラーリと海」というテーマで、海にまつわるリュック・フェラーリ作品を5本、きままなランキング形式でご紹介してみます。さて、ご存知の作品は入っているでしょうか?
5:上海夫人 (Madame de Shanghai : 1996)
タイトルに「海」が入っているというだけで選ばれた作品がこの「上海夫人」(1996)です。
パリ13区の中国人街にあるお店で「上海夫人」の音盤を探す、ということから始まる物語。このお店はまだ現存しているそうです。
リュック・フェラーリが上海を訪れたという記録はありませんが、今の上海の興隆を思う時、もし訪れて作品を残してくれていたら、と考えると楽しいですね。
MADAME DE SHANGHAI - APRÈS PRESQUE RIEN - VISAGE 2 - Luc Ferrari
4:思い出の循環 (Cycle des Souvenirs (Exploitation des Concepts Nº 2) 1995-2000)
作曲作品ではなく、映像でエントリーしたのが「思い出の循環」(1995−2000)です。
作品の解説については 年に武蔵野美術大学で上演された際の記事をご覧ください。
association-presquerien.hatenablog.com
6枚のCDと4面の映像による、接するものに奇妙な高揚感を抱かせずにはおかない、という、おおがかりなインスタレーション作品。
投写される映像はパリであったり、「スポンタネ4」にも出演したP・ミュクセル邸の庭の様子であったり、女優・歌手のエリーズ・カロンの肖像であったりもするのですが、なんといっても南仏の地中海の撮影時のリュック・フェラーリの写真の力で4位にエントリー。
3:そしてもし今すべてが(Et si tout entière maintenant : 1986-1987)
生粋のパリっ子ではあるものの、コルシカ系の出自ということもあってか、泳ぎも海も大好きだったリュック・フェラーリ。とても活動的な人物でもありました。
そんなリュック・フェラーリですが、この作品「そしてもし今すべてが」( 1986-1987)で砕氷船に載せられることにはさすがに躊躇したようで、D・ジス(元“La Muse en Circuit”(「回路の詩神」協会)会長)に身代わりを頼みます。D・ジスは勇ましく砕氷船に乗り込み録音を試みるのですが、船のエンジン音に辟易し、ヘリコプターで船の外に搬出してもらってようやく求めていた音を手に入れることができました。
しかし録音を終えても迎えのヘリコプターは一向に来ません。
「いや、まさか」と思っていた時に来たヘリコプターにようやく乗り込んだジスは、自分がその「まさか」のシチュエーションにいたことを知り、異様な震えが止まらなくなるのでした。
2:ほとんど何もない第一、あるいは海岸の夜明け(Presque rien (Nº 1) ou Le lever du jour au bord la mer : 1967-1970)
「リュック・フェラーリ × 海」と聴くと、誰もが思い起こすのはやっぱりこの作品「ほとんど何もない第一、あるいは海岸の夜明け」(1967-1970)でしょう。
日本だけでなく、世界中からあまりにも愛されているこの作品は、クロアチア(旧ユーゴスラビア)のアドリア海に面した小さな村でリュック・フェラーリが録音した音から作曲された作品です。
当たり前ながら「音を録る」には「音を聴く」ことが必要です。「音を編集する」には「音がどう聴こえるか」を知らなくてはいけないでしょう。
この作品が今でも広く愛される理由のひとつには、限りなく素朴でありながらも、「音を楽しむ」よろこびのようなものが、聴くものにストレートに伝わってくることもあると思います。
さまざまな才能ある音楽家との実りある交流によって培われ、鍛えられた思考と、めざましく発展をはじめた録音技術が運命的なロケーションと出会ってスパークした希有なる作品です。
The days rise by sea、Dawn by the sea……「平成最後の『海の日』」の20分をこの作品を聴くことに割いたっていいはずっ!でももちろん予定調和なんて……でまさかの2位にランキング!
1:少女たち、あるいはソシエテⅢ (Les jeunes filles ou Société Ⅲ : 1967)
港町ハンブルグを舞台にした「少女たち、あるいはソシエテⅢ」(1967)。
紙片からそれぞれが与えられた役割を演じる/演じない「ソシエテ1」、昨今流行の「女体化」を半世紀近く先取りした観さえある(かもしれない)「ソシエテⅡ、あるいはもしピアノが女体だったら」に続いての「ソシエテ」シリーズ第三弾は、予算もますます壮大に、劇場もフランスも離れての西ドイツでの制作による映像作品。
少女たち(といっても10代後半〜20代前半)へのインタビューとハンブルグの街を見事にスケッチした25分の佳篇です。ロックあり、縁日ありのこの作品は最初から衝撃のエンディングに至るまで、音だけでもヘールシュピールとしての熱量すら十分にもっていて、どんな聴き手をも飽きさせない魅力があります。
並走するボートの疾走感や港のクレーンの活写も含めて、見事「海の日×リュック・フェラーリ」の1位に輝きました!
【関連過去記事】
リュック・フェラーリ監督作品が日本で初めて東京と京都で特別上映!(その1) - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)
武蔵野美術大学特別講義 映像インスタレーション『思い出の循環』"cycle des souvenirs" 採録 - リュック・フェラーリの『プレスク・リヤン協会』(簡易日本語版)